
安心して見られる勧善懲悪ストーリーなのですが、危なげなさすぎてどこでドキドキしたらいいのか、というのが難点な作品ですね。
デンゼル・ワシントン演じるマッコールはホームセンターで働いているけれど身のこなしに隙がなくて、仙人のように日々を過ごしている男。同僚をトレーニングしたり、深夜のダイナーで読書に勤しんだり、日常の中に完全に溶け込んで、あえて存在を消しているかのよう。
そんな彼が、ダイナーで知り合ったロシア系の移民の女の子アリーナ(クロエ・グレース・モレッツ)がいやいや売春をさせられたり、元締めに暴力を振るわれたのをきっかけに、私的な制裁を加える、という話。
ロシアン・マフィア5人を一瞬で片づけたのが、結果としてロシア本国から暴力的な部下テディを招くことになり、買収されたボストンの警察官も含めて敵に回すことに。後にわかるのですが、マッコールは妻の死をきっかけに引退した、元腕利きの工作員という設定。個人的な感情でマフィアを何人か殺したことで、何を引き起こすか、考えなかったのかな、というのはちょっと謎ですね。あとで昔の知り合いに告白はしていますが。
自分の身元がこう簡単に割れてしまう、とは思っていなかったのか、それにしても殺し方が派手だし、その後の警官との対峙でも面が割れるような会い方をしているし、テディが訪ねてきたあともアパートを引き払う様子もないし、警戒心というものがあるんだかないんだか。
テディの暴力的で強権的な存在感は、アリーナの友達マンディーを問い詰めて殺すあたりまでは面白かったんですが、次々に裏をかかれて、後手後手に回ってしまって、最後の方はちょっと情けない人になってしまいましたね。アリーナがなぜすぐに発見されなかったのかはちょっと謎。町から痕跡なく消え失せた、とか言ってましたが、最後にはまだ治療が終わってないことをあっけらかんと話してるし、身を潜めていたわけでもないようなので、探し方が悪かった?
あとは後半の重要な伏線になるのが、ホームセンターの同僚のラルフィー。警備員が夢で、マッコールの個人的なトレーニングをうけて見事合格。その途中にはお母さんの店が警察にカツアゲされて、それにもマッコールが復讐してくれる、とかちょっと過剰な正義の味方ぶり。ここまでやるともはや特撮覆面ヒーローに近いのでは、と思ってしまいました。でもラルフィーが警備員になっていたことで、最後の対決が生きることになったし、ピンチの時に助けてくれる存在になった、ということですね。
ただ、最後にテディを無慈悲に撃ち殺すところを目の当たりにしたラルフィーは、マッコールのことをどう思ったんでしょう。なにか悲しい殺人機械を目撃したような、今まで知っていたと思っていた人物の何もわかっていなかった、という衝撃が大きかったような気がします。
マッコールの戦い方は、知的なゲリラ戦で、いろいろな罠を仕掛けて相手の裏をかいて数的不利を覆す、というもの。一人ずつ片づけているので、ほぼ手間取ることなく確実に仕留めているのですが、途中、なぜこんなに手間取ったのか、という格闘になってしまうのがちょっと不思議。そういう人工的なピンチを招かないと危なげなさすぎたということでもあるんですが。
途中でマッコールが訪ねる元同僚の旦那の方がビル・プルマンだと、ウィキペディアを見てから気づきました。いい感じの中高年になってますね。クロエ・グレース・モレッツは「キック・アス」をきっかけに、「ヒューゴの不思議な発明」「ダーク・プレイス」「フィフス・ウェイブ」「サスペリア」と話題作に次々と主演していますね。序盤の濃いメイクの時は誰だかわからなかったですが、最後のシーンでやっと見覚えがあるな、と思いました。
ちょっとベタで危なげなさすぎなのがマイナスですが、秒数を数えて殺すとか、なぜかタトゥーを細かく見るとか、殺す前の特撮効果が面白かったです。それも前半だけでしたけどね。