
バリー・シールという、実在の人物を描いた伝記物とも言えるでしょう。
原題はAmerican Made。つまり、「アメリカという国自身が生み出した矛盾に満ちたヒーローであり、裏切り者でもある」ということなんでしょう。
最初、なんでバリーがCIAに目をつけられたのか、あんまり説得力がないように感じたのは、たぶん飛行士としての有能ぶりがTWAの定期便を飛ばしているだけではよくわからなかったからなんでしょうね。
トム・クルーズの愛嬌ある感じが、誰にでも気に入られて、利用したいと思わせるある資質を表しているのでしょう。中でも面白かったのは、CIAが利用しようとしているコントラが、全然戦う気なんかない人々だ、という部分で、おそらくここにアメリカという国家の滑稽さが一番凝縮されているのではないでしょうか。
義理の弟JBのダメさ加減が、結果的には命取りになったようですが、結局バリーもその気になれば麻薬組織の力にはまったく太刀打ちできない。その時その時で本人なりに最善の手を尽くし、あらゆる意味で人生を楽しんだのでしょうが、その役割を終えれば、アメリカからも、麻薬カルテルからもお払い箱になる、そんな冷徹な真実があったと思います。
ラストの、クレジットがいかにもVHSの安いダビングテープにコピーしたような色調と劣化具合が、この国家を舞台にした出来の悪い権力ゲームの時代錯誤感を象徴しているような気がしました。