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シェーンベルクの孫が弁護士になって、ナチスによって略奪されたお宝を取り戻すために戦う、というのがフィクションでない、というのが衝撃的です。

途中で家族の理解とか、弁護士と原告の相互の理解が進んだり、戦前の思い出とのカットバックがあったり、とドラマチックな要素もいろいろとあるのですが、ストーリーそのものは、ごくまっとうな正義を行う、という話です。

驚くべきで、しかも我々もよく考えるべきなのは、訴訟の相手であるオーストリア政府が、ナチスの被害者である、という主張と、「アデーレ」の絵は自分たちのものである、という主張を同時にしていることで、ここには明確な欺瞞がある。もしかしたら、オーストリアが当時はナチスを諸手を挙げて歓迎していた、というマリアの主張は、日本が第二次大戦を大喜びで迎えたのと同じ構図なのかもしれない、と深く考えさせられます。

今の日本も、戦前の我々はだまされていた、ファシズムの被害者だった、と主張する同じ舌で、もっとひどい被害を受けた外国人の人々を差別し、戦前の日本の犯罪を大したことではないかのように扱おうとする。この映画の中のオーストリア政府の姿は、現在の日本そのものなのだと思います。

ヘレン・ミレン演じるマリアとライアン・レイノルズ演じるランディの演技は絶品、微妙な心の揺れや、相互の信頼感の発展、ユーモアのセンスはともすれば暗く、重いだけになりかねない作品を見事に運んでいます。

途中、アメリカの判事でジョナサン・プライスが人を食った問答をしたのも楽しかったけど、全体の中では少しやりすぎ感もありました。