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2006年だからもう結構前の作品になってしまうのですが、名優・名監督が組んだウェルメイドでヒューマンなタッチのある作品に仕上がっています。最近よくありがちな流血オンパレードとは違う、格調の高い中に謎が仕掛けられ、ちゃんと最後に伏線を回収する、傑作と言えると思います。

初めは普通の銀行強盗か、「ダイ・ハード」的なトリックで大金をどうせしめたか、が中心の犯罪ものかな、と思いつつ、途中で時系列を無視した形で人質だった人々の尋問風景が挟まり、「あれ?」と思わせます。しばらくして、人質全員に同じ恰好をさせたことの意味がわかってくるわけです。

初めの方で言うことを聞かなかった銀行員がすぐに処刑されるのかな、と思っていたら殴られるだけで済んで、もう少しすると、「待てよ、誰も死んでないな」と気がつくので、この犯人たちの意図が月並みな強盗ではないのかな、と気がつくようになりました。

初めはジョディ・フォスター演じるマデリーンは敵か?味方か?と疑問に感じる存在ですが、次第に真実に近づくにつれて、出世のためにすべてを犠牲にしたいとは思わなくなってくる。それは横領を疑われながらも地道に努力しながら自分の手で成功をつかもうとするフレイジャー刑事への賞賛の気持ちとの連動なのかもしれません。

結局、最初からの目当ては銀行のケイス会長のナチスとの関係にまつわる情報だった、ということがわかり、半ば犯人側にシンパシーが移った形で進行します。金を奪う様子もないし、穴を掘っている様子は何度か描写されるので、突入後になんでこれがばれないのかな、とちょっと不思議な気がしました。タイトルの「インサイド・マン」は、人質の中の「裏切り者」を象徴しているのかな、と最初は思ったのですが、最後のオチを見たらそうではなく、「ずっと中に隠れていた男」という意味もあったのでしょうね。

スパイク・リー作品らしく、全編を通じて他民族への差別・ヘイトはモチーフとして常に流れていますね。

いま実際に同じような事件が起きたら、マスコミの注目はこの程度じゃ済まないだろうし、関係者の聞き取りはもっと厳しく、人員を割いて行われて、人質になりすました犯人なんていうのはすぐにあぶり出されそうなものですが、そういう捜査が進行しないように圧力が加えられていた、という背景もあるんでしょうかね。

デンゼル・ワシントンは「マルコムX」で主演、ブレイクした人ですね。ウィレム・デフォーは「プラトーン」「ミシシッピ・バーニング」など社会派ドラマでもしっかりした演技をしてきた人です。途中で殴られる人質役と犯人役をやっていたジェームズ・ランソン、ついこの前見た「バッド・バディ!」で最後に殺されるチンピラをやっていた人ですね。