
夜中に見るには辛い映画かもしれません。
とにかく、作り込み度や、古語の駆使など、時代考証のリアリティーは圧倒的。夜の闇や貧しさ、無知が直面するのは原始的な恐怖。それに対して人間がいかに無力であるか。世間との折り合いがつけられなかった父親が家族を連れて村を離れることから始まった悲劇を淡々とつづります。
とにかく、陰鬱で、救いのない人生。できることはただ神に祈るだけ。
頑固で、他人の言うことに耳を貸さない父親、とにかくヒステリーを起こしてばかりの母親、勝手気ままに振る舞う幼い双子。そこに配置されたのが初潮を迎えたばかりの思春期の娘トマシンとその姉の色気にめざめてドキドキする弟ケイレブ。
基本はトマシン・ケイレブの視点から描いているのですが、時々幻想シーンが挟まり、これは現実に起きていることか、あるいは人物の内面か、あるいはリアルの策略か、という混乱に陥ります。トマシン演じるアニヤ・テイラー=ジョイは「モーガン」「スプリット」でもずば抜けた存在感を発揮していましたが、このケイレブ役がブレイクにつながった作品のようです。
変な言い方をすれば、彼女の若さ・美しさが「魔」を呼び寄せた、とも言えるのかな、と思いました。母親は彼女の美しさに嫉妬している。弟は姉に思春期の目覚めを感じる。双子は一緒に遊んでくれず母親がわりに叱ってばかりの姉に反感を、そして父親はそんな彼女の信仰心を疑う。
思春期ならではの権威(父)への反感、自分たちを惨めな境遇に追いやった宗教的頑迷さへの反抗心、つい弾みで口にしてしまった言葉の偽悪的な快楽、それらは現代にも存在する、破滅への糸口なんだと思います。
エンドクレジットで流れますが、当時の記録に基づき再構成した物語なので、当時の言葉がそのまま使われていたりするそうで、そういうリアリティーは万全なのですが、それゆえに、こういった悪魔の誘惑を退ける知恵や強さを持ち合わせているキャラクターは登場せず、貧困の中に悪魔に見入られた家族は、抵抗する術もなく、ただ座して破滅を受け入れるのみ。最初から約束された悲劇が、なんの破綻もなく進行しているのをみるのは少し辛いものがありました。
見たのがDVDなので、画質的には少し残念。森の暗さにもう少し色数や解像度があると、また違った見方もできたかも、と思います。