

クリスチャン・ティーレマン率いるミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団。
場所はサントリー・ホール。曲目はBrucknerの交響曲5番。
改装がおわったばかり、とは言ってもそれほど通い詰めたわけでないぼくにはどこが変わっていたのか分かりませんでしたが、それでもイスに座るといつしかはるか昔にここで聞いた曲の記憶がよみがえります。
21年前の1986年10月22日、同じサントリー・ホール。曲も同じBrucknerの5番。
チェリビダッケが手兵ミュンヘン・フィルを率いて行った最初の日本ツアーのプログラム。今年になってやっとFM東京が秘蔵音源をCD化してリリースしたのですが、家のアンプがイカれたためまだ聞くにいたってはいません。
幾人かは見覚えがあったりして、それでも相当数が入れ替わったに違いないオーケストラのメンバーが登場して、当時と同じようにコントラバスからチューニングが始まっただけで、もうなんだか分からない思いにとらわれていました。
クリスチャン・ティーレマンは、ドイツの音楽界では期待の新星で、だからといって粗製乱造の音楽はやらない人で、年間のコンサートの本数も抑えて勉強に時間を割いている、という人らしく、極めて真摯な音楽の作り方をします。
基本はイン・テンポですが、ここぞという所だけはテンポを落としたり微妙にすき間を開けたりして曲のパーツの構成を浮き立たせるやり方。
1~2楽章の造形は確かなもので、リズムの合わせも緻密だし、弦の歌わせ方も念が入っていて、極めて好感が持てます。ミュンヘン・フィルもいまひとつしっくり来なかった前任者のレヴァインとの記憶をぬぐい去ったかのように、濃密なアンサンブルで答えます。
チェリビダッケの指揮技術が極めてオーソドックスな「叩き」「ダウンビート」の人だとしたらティーレマンは「ひっかけ」「はねあげ」の人という感じで、指揮する姿はちょっと昆虫みたいでそれほどかっこよくはありません。ただ、強調したいリズムとかは、そのほうが打点が高く見えるので団員の見やすさ、合わせやすさという意味では有利なのかも知れません。
3,4楽章になって、いよいよ盛り上げどころ、みたいになると、ちょっとリズムにもちょっと緩みが見られて、形式の積み上げで作られたこの曲の構成美がやや後退した感じもありましたが、それでもぼくは十分に満足しました。
演奏が終わった直後、一部の前のほうにいた人がフライング気味の拍手をパラパラ、どころではない勢いで始めたのですが、それもすぐに止み、しばらく沈黙が続きます。どうやって収拾するのだろう、と緊張が走りましたが、やがて盛大な拍手が始まりました。
頑張った楽員を一人ずつ立たせるやり方もむかし通り、チェリビダッケと共に演奏した自分たちの歴史をこのオーケストラがいかに誇りに思っているか、を改めて感じたのでした。
ぼくもそっと一言「おかえり」とつぶやいたのでした。