子どもの頃の記憶を。
よく昔は地面に細長い金属片が散らばっていて、なんだろうと思うと、そこには文字が一つ刻印されている。これを見つけると何か特別な秘密をもったような気分になった。
小学生の頃、近所に「停雲荘」という、ややのんびりとした名前のアパートがあって、学校に行くときには必ず前を通っていた。たいてい窓は開けっぱなしで、そこにはまだ幼稚園ぐらいの「タカシ」くんと、2~3才の「さっちゃん」という女の子が暮らしていた。
全然こっちが年上なんだけど、二人と遊ぶのが楽しくて、しょっちゅう通っていた。
そこのおかあさんが、内職でやっていたのが和文タイプ。当時は内職としては結構ありふれていて、いろんな家で「がしゃん、がしゃん」と大きな機械で文書の原稿を打つ音がしていた。
ひらがなからカタカナ、そしてあらゆる実用的な漢字が一文字ずつの金型になっていて、ハンマーのような仕組みで文字を拾って謄写版のような原稿用紙に打ち付けていく。文字のセットは時々更新になるらしく、入らなくなった金型はばらばらにあちこちにうち捨てられることも珍しくなかった。
いったいどんな文書を打っていたのか、今となっては興味がわくけれども、そればかりは知りようがない。
いつのまにかタカシくんたちは引っ越していって、ちゃんとあいさつもしなかったから今どこでどうしているかも知らない。
でも実家から自宅までの帰り道に、名前も変わってしまったそのアパートの前を通り過ぎると、かすかに和文タイプの音が聞こえてくるような気がする。
※ ※ ※ ※
いまでこそこんなにパソコンとかワープロとか普及してるけど、ちょっと前までは日本語の活版印刷は素人には手が出ないものだったんだなぁ。
よく昔は地面に細長い金属片が散らばっていて、なんだろうと思うと、そこには文字が一つ刻印されている。これを見つけると何か特別な秘密をもったような気分になった。
小学生の頃、近所に「停雲荘」という、ややのんびりとした名前のアパートがあって、学校に行くときには必ず前を通っていた。たいてい窓は開けっぱなしで、そこにはまだ幼稚園ぐらいの「タカシ」くんと、2~3才の「さっちゃん」という女の子が暮らしていた。
全然こっちが年上なんだけど、二人と遊ぶのが楽しくて、しょっちゅう通っていた。
そこのおかあさんが、内職でやっていたのが和文タイプ。当時は内職としては結構ありふれていて、いろんな家で「がしゃん、がしゃん」と大きな機械で文書の原稿を打つ音がしていた。
ひらがなからカタカナ、そしてあらゆる実用的な漢字が一文字ずつの金型になっていて、ハンマーのような仕組みで文字を拾って謄写版のような原稿用紙に打ち付けていく。文字のセットは時々更新になるらしく、入らなくなった金型はばらばらにあちこちにうち捨てられることも珍しくなかった。
いったいどんな文書を打っていたのか、今となっては興味がわくけれども、そればかりは知りようがない。
いつのまにかタカシくんたちは引っ越していって、ちゃんとあいさつもしなかったから今どこでどうしているかも知らない。
でも実家から自宅までの帰り道に、名前も変わってしまったそのアパートの前を通り過ぎると、かすかに和文タイプの音が聞こえてくるような気がする。
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いまでこそこんなにパソコンとかワープロとか普及してるけど、ちょっと前までは日本語の活版印刷は素人には手が出ないものだったんだなぁ。