
成績優秀なアスペルガー症候群の子供たちを集めた施設「アスピー・エデン学園」に起きる小さな事件。それをきっかけに主人公ザッカリの世界は180度反転します。残されたのはガールフレンド・ティアの手記のみ。この手記にユダヤの歴史について簡潔にまとめた記述があり、かなりバイアスのかかった批判的な物の見方なので、「こんなに書いて大丈夫なんだろうか」と冷や冷やしたりしたけれども、この程度は誰でもやってることなんでしょうか。矛盾に満ちた旧約聖書の物語の成り立ち/その真の目的についての懐疑と、現代に生きるアスペルガー症候群の子供たちをめぐる陰謀とが並行して描かれます。こういうレトリックをもって描かれると、ヒットラーなども歴史の流れの中では小さな抵抗者にしか見えないという、価値の相対化が示されています。民族と宗教、日本にいると遠い世界の瑣末な出来事に見えてしまうのですが、世界中の大部分ではそれが主要な関心事になっているという現実にあらためて気付かされることがらです。
「ヘルター・スケルター」も、現実に起きたシャロン・テイト殺害事件の関係者のインタビュー、という形をとりながらアメリカの抱えた病、ベトナム戦争にメスを入れながらも、犯罪者の犯罪者たる所以に新しい光を当てています。
どちらの話にも、人間の「脳」の機能にかかわる専門的な記述があり、綿密なリサーチがなされたことが伺えます。
「ヘルター・スケルター」の方が、どちらかというとトリックが大仕掛けで混乱させておいて、最後のオチですっきり解決します。「エデン~」の方はジュブナイル小説のような趣で、ストレートに読んでいくだけでジェットコースター的な展開が楽しめると思いました。
ちらっとアマゾンの読者評を目にしたんですが辛い点をつける人が多かったですね。そんなに減点法で評価しないと気が済まないんでしょうか。