
監督は長谷川和彦といって、監督作は2本しかないらしいのですが、本人の話では角川春樹にケンカを売って以降、商業映画の世界では仕事が来なくなったのだとか。
話は、普段は中学校の教師として過ごしている主人公(沢田研二)が、自宅でひそかに原爆を作り上げ、それを元に日本政府を脅迫する、という物騒なピカレスク・ロマン。リアルとアンリアルの狭間を揺れ動きますが、何が面白いかというと、犯罪の手口とかがずいぶん丁寧に錬ってあって、最近のスパイ映画ほどハイテクに頼ってはいませんが、そのプロセスと警察とのおっかけっこがドキドキします。警察はもう少しスマートにやろうと思えば出来そうな気もしますが。
テーマは、「何がやりたいのか分からない」、なのかな?物質的にはある程度豊かになった日本で、これ以上何を望めばいいのかが分からず、原爆を造る技術があれば作ってしまう。でも作ってしまったからにはそれを爆発させないと持っている意味がない、という、ある意味では日本の、ある意味では世界のおかれている閉塞状況の暗喩として主人公の存在があるのだろうと思います。だから、原爆を持っても要求するのは、ナイターの中継を延長しろだとか、金を東急デパートの屋上からばらまけとかそんなオバカな要求ばかり。
彼が対峙するのは菅原文太が演じる刑事。冒頭で鮮やかにバスジャック事件を解決したり、体を張った人情デカぶりを発揮します。ダイハードどころではないしぶとさなので、ちょっと「これはありかよ?」と思うシーンもありましたが、主人公の、気味が悪いまでの無感動ぶりとの対比のためには、このくらい濃いキャラでもいいのかもしれません。
一番意外だったのは、FM?の人気パーソナリティー役をやっていた池上季実子がすごくかわいいこと。ある時期以降、時代劇の常連になって大奥などでつんとすました役を演じているイメージしかなかったのですが、こんなかわいい時代があったんだぁ…。
制作は1979年と、もう80年代が見えるような時期。当時の映画のスタイルとしては、風俗などはむしろ古くさく見えるような映画だったかも知れません。実際、この映画は、戦後の日本から失われつつあったある「時代の精神」が潜伏した結果として「魂なきテクノロジー」が何を作り上げるのか、という観点から描かれているのでは、と思うのですが、そういう意味での70年代文化へのノスタルジーにも満ちているように見えます。ジュリーを起用したこと事態がその現れでしょう。彼の演技は、飛び抜けています。新世紀を迎えた現代の日本にこういう若者が現れてもなんら不思議はない、むしろ現代においてリアリティーをもつキャラクターなんじゃないかとさえ思います。
公開当時は不入りで早々と打ち切りになったそうですが、どうしてどうして、これは沢田研二畢生の名演であると思います。DVDも出たそうなので、興味のある方はどうぞ。