
で、この「99%の誘拐」は、二人の脂の乗り切った時期の作品と言えると思います。
冒頭は、日本で小さな電子産業を立ち上げた社長が、その会社の正念場ともいえる時期に巻き込まれた、息子の誘拐事件に始まります。しかもその社長はこの事件の身代金を失うことですべてを失い、失意のうちに死の病の床で回想録をつづっている、という鬼気迫るシチュエーションなので一気に引き込まれました。そして、身代金を渡すためのさまざまな段取りなどのスキのない攻防が緻密に描かれ、その身代金の行方とともに、不可解な結末を迎えます。
そして、当時誘拐された立場の息子が成人した頃に、その身代金が意外な形で見つかったことから、あらたな謎と、もう一つの誘拐事件が動き出します。
ある意味、倒叙形式で書かれている犯罪なので、読み進めば犯人は分かってしまうのですが、そういう謎解きとは別な次元での伏線や、心理的な攻防戦が描かれ、興味はつきません。ある時期の高村薫の犯罪小説に近いテイストの、人間の業というものを感じさせるプロットで、しかも犯罪のプロセスに用いられているツールがきわめてハイテク装備されているのがこの小説の若さ、勢いのようなものになっていると思います。
今ではすでに携帯電話やワイヤレス通信の普及によって陳腐化してしまった手法もあるのですが、1988年の作品としては、もう信じられないほど緻密に構成され、練られた手口の見事な犯罪といえるでしょう。自分が捜査する立場でもこれは見抜けないなぁ、なんて思ってしまいました。
最後の結末は、どう受け取るか人により違うと思います。やや甘ったるいと思う人もいるかも知れないし、もう一つどんでん返しが欲しかった、という個人的な欲求もあるのですが、この小説の醍醐味は、そういう結論部分にばかりあるものでもないなぁ、と思いました。