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上遠野浩平という人が「ブギーポップは笑わない」でデビューしたと聞いたのはずいぶん昔のことです。個人的には今ほどミステリーを一生懸命読んでいたわけではない、というのももちろんですが、それだけではなく、なんか「ブギーポップ」という言葉を音楽のブギウギと勘違いしてなんとなく趣味と違うなぁ、と敬遠していただけのような気もします。当時読んでいたらどんな感想をもっただろうか、と思うとちょっと惜しい気もします。

さて、この上遠野浩平の新作「メモリアノイズの流転現象」、読んでも「流転現象」というのはややアバウトでしまりのないタイトルのように思えます。「ソウルドロップ」シリーズの第2作にあたるこの作品は、第1作の設定を広げながら、より普遍性のある物語をつづるのに成功していると思いました。

毎度「生命と同じ価値のあるものを盗む」と宣言する紙を現場に残す「ペイパーカット」と呼ばれる怪盗と、それを追うサーカム保険の調査員伊佐と千条のコンビは今回も大活躍。個人的にはこの千条の「ロボット探偵」がどのようなきらめきを見せるか、が一番の読み物だと思っています。

そして今回絡むのはとある離婚問題の調停のためにとある山にやってきた早見という私立探偵と、その背後で暗躍する暗殺者ソガ、という魅力的な舞台です。

今回のストーリーのほうが、「魂の一滴と引き換えに命を奪う」と言われる「ペイパーカット」の意図するところがより明快に表され、ごく自然な筋の展開の中で「奇跡」を巧妙に演出することに成功しているように見えます。登場人物それぞれにとっての「人間としての本質」をいやが上でも考えさせる一冊でしょう。