未開封LDを少しでも消化しようと、アルジェント1996年作品の「スタンダール・シンドローム」を見た。DVDにもなっていない珍品らしい。帯にはヨーロッパで「セブン」をしのぐ大ヒット!とある。ホントかな。

アルジェント作品は中学生の時に「サスペリア2」で出会って以来、何本か見ているが、コンスタントに発表を続けいてる、情熱的な人だなぁという感覚。カルト的なこだわりというか美学というか、でもちょっと外しぎみのところがかわいらしい。

作品のタイトルになっているのは作家のスタンダールが芸術作品を見た時に忘我の状態に陥った、という著述を拡大解釈して、美術作品に触れると狂気をもたらす、という理論に仕立て上げている、らしい。主演は監督の娘アーシア・アルジェント。最近は監督としても活躍している。この作品では、長い黒髪をばっさり切ったり、ブロンドのかつらをかぶったりして体を張った熱演。これを演じるのは大変だと思うから、力のある人なんだと思う。髪が黒いと高木美保、金髪だとユマ・サーマンに似てる…。ということは高木美保はユマ・サーマンに似てるということか。

連続レイプ殺人犯を追っていくうちに、アーシア演じる女性刑事が深みにはまっていく、というのが基本的な映画の流れ。冒頭でいきなり犯人にレイプされたり記憶を失ったり、えらい目に遭う。途中でフィレンツェ、ローマ、それから名前を忘れた田舎町と、次々と事件が場所を移して展開していく。途中で大体筋が見えてきて、「まさかそのまんまってことはないよな」と思っていたら、まさにその通りに終わってのけ反ってしまった。回収されない伏線や意味不明のイメージカットはふんだんにあり、ホラーとしてはなかなか楽しいのだが、まじめに推理すると肩透かし。

途中、記憶を失った主人公が壁に飾られた絵の中に入っていくと、自分の過去の体験に出会い、自分の正体を思いだす、というのがあり、それまでの体験との逆転現象が生まれるところ、巧妙だと思った。そのまま何度も絵画世界との言ったり来りを繰り返しながら、どれが本当の世界での体験でどれが幻想なのか、区別がつかなくなるようなロジック・ミステリーだったら別な面白さがあったかも知れない。

バカ演出もタップリなのだが、一番楽しかったのは人面魚とのキスシーンか。あと飲み込まれた錠剤の目線カットというのが素晴らしかった。絵画の中に溶け込んでゆく合成も何回か出てきたのだが、やや映像がちゃちなので、あまり感心しなかった。

まあ、こういう企画でもフィレンツェのウフィッツィ美術館が撮影許可を出してるあたり、アルジェントの巨匠ぶりが伺えると思った。