
これの前に、森博嗣のデビュー作「すべてがFになる」もマンガ化され、それも読んだ上でのことなので、この組み合わせは2作目、ということになる。前作がマンガ化の本来のスタイルによりハードに寄り添っていたとすれば、今回はややゆとりが出た上での原作ファンへの配慮も若干なされたバージョンと言えるかもしれない。
この浅田寅ヲ、男性か女性かも知らないのだが、予備知識なしにオリジナル作品を読むとかなりおいてかれる、というか独特の画角と省略話法を持っている人で、非常に現代的な硬質でシャープなタッチ。「Pied Piper」と、「Quiz」を見たところ、「アキラ」などの世紀末的青少年のあり方に興味が集中しているようだ。この冷たさが、森博嗣描く理系天才型人間の描き方に通じているらしい。この画風は犀川創平や、国枝桃子女史など、一見クールな人間の中に突発的に起きる、つむじ風のような激情を描くのには非常に適していると思う。
今回の「冷たい密室と博士たち」は、犀川と萌絵のコンビが極地研を訪ねてそこでの実験を見学している時に起きた殺人事件(しかも同時に二人殺される)をめぐっての物語。小説を読んでいて、やや想像に頼るしかなかった現場の状況が、納得いく形で提示されただけでも収穫はあった。2作目に入ってゆとりも出たか、コミカルな面もいろいろとうかがえ、収穫の多い1冊だった。あとがきは原作者の森博嗣本人。曰く、本人はもともと作家よりはマンガ家の方が向いていると思っていたとか。まあ本人の弁だからどこまで信用できるかどうか。でも浅田寅ヲの作風は気に入っているらしい。
どちらかというとすでに原作を読んだ人向きだと思う。原作を読まずに本作を読んだ場合に、理解度がどの程度に達するかはちょっと保証できない面もある。つまらなくはないと思うが、人間関係を含めて、裏を味わいたければ、原作を先に読んだ方がニヤリとできるハズ。