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島本和彦原作の「逆境ナイン」を見た。予告編からちょっと期待をしながらも、ひょっとしたらものすごくスベっているかも、と恐れての視聴。見たのが21時上映の回で、その時点で観客席には5人…。おいおい。

ところがこれがいいのだ。チーム☆アメリカの数百倍いいのだ。

冒頭の藤岡弘演じる校長が「廃部だ!」と怒鳴るシーンからしてもういいのだ。うれしくてにやにやしてしまうくらいに。

野球の試合がメインであるのに、野球の練習風景を徹底して無視するその描き方。そしてさまざまな特撮の使い方、全力を尽くしてバカバカしいことを表現する、いわゆる「無駄な努力」のあり方は現代のリアリティー指向に真っ向から挑戦状をたたきつけるモノである。なぜ部室の屋根を突き破って「自業自得」と書かれたモノリスが墜落してくるんだ、とは聞くべきではないだろう。映像に夢がなくてどうするんだ。リアルに地味にCG使ってどうするんだ、と島本と羽住の魂は告げるのである。

クラシックの楽曲の場合、いろんな人が演奏して、予測と違うことが展開しても「ああ、こういう手もありか」「これはこういう読みね」と納得がいけばまあ許せることが多い。派手に勘違いした演奏を聴くと「あーあー、そりゃ違うでしょ」と思うケースもある。原作がある映画の場合、これに近い感覚で見ることになるのだが、つまるところ、監督の羽住英一郎が、島本和彦の原作世界を掌握し切って、若い俳優をその世界にノセ切っているのがよくわかるのだ。

そういう意味では玉山鉄二と堀北真希の健闘ぶりは称賛に値する。ツメの垢でも煎じて堤真一と永瀬正敏に飲ませてやりたいほどに。そして、島本和彦の原作以上に島本和彦的な存在感を発揮した藤岡弘を効果的にちりばめた演出をも称えるべきだろう。エンドクレジットで「藤岡弘、」となっていたのにはなにか意味があるのだろうか。

わずかに真ん中のロマンス部分から終盤に欠けてややダレ場があるのだが、トータルで見れば大健闘、大傑作である。ビデオでもいいから見るべし。