
実は先に行った数名の知人からは「びみょー」と「面白かったですよ」が入り交じっていたので、それなりの覚悟は出来ていた。その上での感想と思っていただきたい。
まず内容以前に文句が言いたいのは、予告編の数が半端じゃなく多いこと。あんなに流さないといけないんだろうか。開演が19時とあったが、本編が始まったのはおそらく30分も過ぎたころだった。
いきなりパリのマスターショットからはじまり、ここは映像としてなかなか見せる。長回しのカットの中で、人形遣いやら、パントマイムの大道芸人やらが入り乱れる。全員が動いていること自体が信じられないようなカットだ。他にもニューヨークのタクシーがあふれ返るシーンとか、細かい人(人形)の動きを見ているとちょっと人形劇には見えないカットが続出する。一部は実写と合成して、ある程度縮尺はいい加減に済ませているところもあるのだが、そんなことに文句を付ける気にならない力の入れようである。
人形の表情の精巧さは、かつてのサンダーバードが世界を驚かせたレベルをまた上回る精巧さである。基本はオマージュなのだろうが、ほとんどの主役クラスの顔の造形はサンダーバードを思わせる。わずかな動きで表情を想像させるところ、本当にどうやっているのだろう、と思ってしまった。音楽との相乗効果で動いていない表情が動いているように見えるのだろうか。だとすると人形浄瑠璃とか能・文楽とかの表現方法にも近いのかも知れない。
あと、エンドクレジットを見て驚いたのが、ほとんどの声優と挿入歌の作曲・歌を監督の他わずかなメンバーでやっていることである。冒頭の度肝を抜くエイズの歌の他、モンタージュの歌、パールハーバーは糞だ、の歌、金正日は孤独だの歌など、ミュージカル映画としては秀逸な使い方をされている。
これだけの好材料がそろっているのに、残念ながらお勧めできないのだ。この映画。あまりにも下品・悪趣味すぎる。トータルのストーリーでやろうとしていることは混乱の極みである。アレック・ボールドウィン率いる俳優組合(FAGと略してオカマの意味のFaggotも連想させている)の描き方も、根拠のない悪意に満ちているし、チーム・アメリカの乱暴な解決法に対する批判勢力が北朝鮮に利用されて、逆に世界を滅亡させる、という筋書き、それを阻止するチーム・アメリカの正当性そのものを含めて、説得力は全くない。わずかに主人公の演技力が武器となる、というギミックの描き方に好感が持てる程度で、トータルでのメッセージ性がない、というのが悪とは思わないが、作り手としての趣味の悪さの方が先に立ってしまう。
もちろん、子供っぽい笑いは随所にあるし、そういうことをやりたかった、メッセージ性なんて糞食らえ、というのが製作者の言い分かも知れない。だとすれば、こんなストーリーである必要すらなかった、というのが見る方の気分だ。もしもメッセージがあるとしても、それ以前の描き方の問題でそれを正しく捉えてもらえない、というのが正確なところだろうか。
出来れば監督は演出に専念して、いい脚本家をつければ良かったのに、と思った。才能の無駄遣いである。