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気づかないうちに山口雅也の新作が出ていたので読んだ。どうも「週刊アスキー」に連載されていたものを単行本化したようだ。この人は「奇偶」である一線を超えてしまった観があり、その後の展開が難しいのでは、とか勝手に思っていたが、どうしてどうして、したたかにその後も多彩な活動を続けている。

サイバー・エンジェルという、ネット上での子供たちの安全を監督する立場になった冴えない中学校教師が、チャットの世界に少しずつはまっていきながら、そこで起こりかけているかもしれない児童誘拐事件を阻止するために奮闘する、というもの。キーワードは「匿名性」。

最初は生徒にいじめられるほどの立場だった主人公祭戸浩実(さいと・ひろみ)が、ネット社会に入っていくにつれて、その面白さにはまっていく様子が「あ、わかるわかる」という感覚で読めた。途中でネカマになってしまったり、小学生としりあったり、というのはややありがちな流れか、と思ったが、事件性を帯びていくところからぐいぐい読ませる。枚数も少なめなので一気に読めるタイプの本だ。どちらかというとチャットの内容は10年ほど前にニフティーサーブで行われていたものにかなり近いと思う。また、人工応答プログラムに関係した話もあり、なかなかそこは面白かった。

ただ、週刊誌のレベルに合わせたのか、本来の山口雅也の力からすると、ちょっと流しながら書かれた、という感じもする。物語の起承転結が割にハッキリしており、読み手は主人公に対してしか肩入れも同化も出来ないので、かなり物語自体がリニアーに結末に向かっていく。犯人を特定・引っかけるためのトリックも巧妙ではあるが、まあよくあるといえばそうだし。匿名性のあるネット社会と現実世界との関係性、あるいは無関係性というものの描き方という点ではさして新しいものがあったとも言えなかった。

まあ結末のホラー仕立ては、嫌いではないけど。