
作者の石持浅海は「アイルランドの薔薇」という作品でデビューし、こちらも読んだが、IRAという、一見日本人から遠いはずの舞台を使って、巧妙な心理描写でぐいぐい読ませる、本格的なストーリーテラーという印象だった。
この新作「扉は閉ざされたまま」も、同様の力作だ。大学のサークルの同窓会で、主人公がある後輩を殺す、というのが事件の内容で、ここで時間というものが大きなファクターとなっている。殺人を犯してから一定時間、被害者は発見されてはならない、というのが犯人にとっての絶対的な条件となるのである。
犯人側の心理から描きながら肝心の謎の部分を巧妙に避けて通る、という難問をクリアし、一時は付き合おうか、というところまで行った女性にトリックを次々に見抜かれていってしまうあせり、というものが非常にうまく描かれていて、「コロンボ」のできのいいエピソードを読んでいるような爽快感があった。
若干の弱みがあるとしたら、主人公がなぜこの女性と付き合わなかったか、という根本的な差異(コンプレックス?)のようなものがあまり分かりやすくなかった、というところだろうか。
それでもぐいぐい読ませる筆力はお勧めである。