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矢野龍王の「時限絶命マンション」を読了した。前作の「極限推理コロシアム」を以前読んで、この作家について評価を留保していた点がいくつかあったのだが、この2作目でなんとなく見えてきた。

この作品自体は、冒頭が貴金属塊をめぐる悪党のウチワもめと、その貴金属塊のありかについての拷問シーンで幕を開ける。そして、まったく語り手を変えての「ぼく=時田恭二」が奇妙な殺人ゲームに巻き込まれてからの出来事で展開していく。

ネーミングからも前作とのシリーズ的な関連性は明らかで、日常性の中に一見ありえないような非日常的な事件を発生させ、その中での人間の振る舞いを丹念に追っていく、という手法がとられている。舞台はマンションで、主人公恭二は若くしてそのマンションのオーナー。彼は、偶然部屋にいる実の兄とともにマンションの中に監禁され、部屋対抗の悪魔人形たらい回しゲーム、という殺し合いゲームに参加させられてゆく。

ここで作家が一番の工夫を見せるのは、ゲームのルール作りと、主人公を最後まで生き残らせるための設定作りである。悪魔人形を持っているところが時間になると爆発する、そのたらい回しの方法はいささか不器用で工夫がないが、かろうじて成立。また、青臭いモラルにとらわれ、自分が生き残る事に執着し切れない主人公を生き残らせるために、あえて現実家の兄と組み合わせている。

ないはずの人形がいつの間にか自分たちの手元にある。いったいどうして?とか、一体犯人グループの目的は?といった謎を縦軸に進んでいくのだが、最後にはやや大仕掛けなトリックが明かされ、オープニングの悪人どもとの関係も解き明かされる。

しかし、なんである。読んで分かりはするのだけど、残念ながら面白くないのだ。

思うに、この人は、「人生みたいなゲーム」と、「ゲームみたいな人生」の区別をあえてつけずに突き進むタイプの作家なんじゃないだろうか。現代に生きる作家ならば、当然自覚的であるべきミステリーのトリックのリアリティーやモラルにあえて鈍感な態度をとりつづけ、世間を知らない青臭い主人公の立場を貫こうとする。あえて物理トリックにこだわって丁寧に仕掛けを作っているのは評価できるのだが、リアリティーのなさがすべてを弱体化してしまっている。

初めてミステリーを読むような中学生ぐらいには面白いかも知れない。「バトル・ロワイヤル」の焼き直し版ミステリーだといえばそれなりに通るのかもしれない。事実、前作の「極限推理コロシアム」はテレビドラマ化もされたそうだ。だが、読後感の悪さ、主人公の心理の甘ったるさ、住人の振る舞いのリアリティーのなさ、どれをとってもせっかく作られたルールと人物設定を生かし切れていない。最後の謎解きも中途半端におわり、ちょっと残念な作品になった。もうこのシリーズを無理に継続すると自分の首を絞める事になるような気がする。