昔のテレビ番組が好きだ。テレビガイドなんかであらすじがあらかじめ分かることもなく、毎週テレビの前で出たとこ勝負で「今週はどんな話なんだろう」とわくわくして待ち構えた時代が一番楽しかった。

そのなかではマイナーな記憶の部類に入るのだが、こんなシーンがフラッシュバックした。
「アイアンキング」というマイナーな特撮ヒーロー番組で、カウボーイハットをかぶった風来坊役の兄ちゃん(当時売り出し中の若手イケメン俳優石橋正次)が結構かっこよかったのだが、その彼が、ドラマの途中でその回のメインゲストである女性に「おれは…おれはあんたが…好きなんだよ」と告白して照れくさそうに笑うシーンである。特撮ヒーロー物の主要キャラクターが女性に告白する、なんてシーンはそれまで見たことがなかった。「おいおいいいのかよ」と子供ながらに思ったことを思い出す。

で、結局女性はその回の怪獣の被害にあってあえなく死んでしまうのだが、そのなきがらを抱き上げて、泣くでもなく、怒るでもなく、静かに石橋正次が、その女性にキスするのだ。ああ、おれもあんなふうにしずかにキスしたい、と思ったかどうかは知らないが、かなり衝撃的なシーンだった。タイトルは「死者へのくちづけ」だっただろうか。今風に言えばネクロフィリアとかいえなくもないが、そうではないにしても、当時の製作者としては大胆なことをしたものだ。

いまでは多分ボックスセットなど買えば改めて見ることもできるのかも知れないが、あえて自分の記憶を大事にしたい世界もある。ちなみに石橋正次さんはいまもご活躍中で、ホームページなどもある。発見したときはうれしかった。