世の中の人間のバランスと言うのは微妙なところで成り立っているらしい。

仕事で付き合いのある若者がいて、今まではずっと他の人のアシスタント的なことをやっていて、ある意味非常に一生懸命なのだ。上の人の言うことはとてもよく聞き、ある意味非常に献身的でありながら、時々は自分の意見も上乗せしながら調子よくやる人物でもある。

今度、彼にちょっと責任のある仕事を任せてみようと言うことになったのだが、そうなると微妙に歯車が狂い始めた。要するに話の構成を立てろ、ということになったときに、「こういう話とこういう話がある」という説明はできるのだが、「じゃあ、どういうつもりでこの素材とこの素材を選んで、トータルでどういう話にするつもりなんだ?」と問われると、全く要領を得ないのだ。

ある意味、責任のあるチーフの仕事、というのはその「つもり」があるかないか、にひとえにかかってくるのだが、その一番大事な部分がその彼にはまだないのだ。そもそも今回の仕事をつけたときも「後見には誰が付いてくれますかねぇ」なんて言っていたのも今から思うとその予兆だったのに違いない。彼は自分の語りたい話を持っていないから、人の気に入るように、人の趣味に合わせて作ることが仕事だといつの間にか錯覚してしまったのだ。

それが一生付いて回る人としての器の問題であるのかないのかは知らない。だが、一度「ナンバー2指向」が染み付いてしまうと、それを抜くのには時間がかかりそうだ。