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化野燐の最新作「渾沌王~人工憑霊蠱猫03」を読んだ。

読んでわかる通り、シリーズの第3作にあたる。化野燐は、元々は「怪」や「幽」などのオカルト系雑誌に評論などを書いていた人らしく、本格的なミステリーはこのシリーズが初めてかも知れない。
いわゆる妖怪を呼び起こしていろいろと企んでいる有鬼派とそれを阻止しようとする無鬼派、そして呼び覚まされた鬼神が憑依する人間たちのさまざまなバトルを、学園を舞台に描いている、というのが簡単なまとめ。

学園が舞台な割に、あまり生徒などの日常生活は描かれず、研究室に妖怪のデータベースを作ろうとしている活動を中心にしているので、学園もののイメージはほとんどない。

前2作で、2体の鬼神「蠱猫」「白澤」が目覚める様子が時系列を超えて描かれたのに対し、今回はさらに時間をさかのぼり、この二人を遠巻きに見守ってきたいい加減男「龍造寺」の視点で、1作目から登場してきた、妖怪具現化の鍵・「本草霊恠図譜」をめぐる争いの帰趨までが語られる。

前2作に比べると、語り口が柔らかいのは、主人公龍造寺の性格ゆえ、ということもあるが、筆者が語り慣れてきたこともあるだろう。ただし、新人作家にありがちな、慣れてくるにつれて情報の密度が薄くなり、引き延ばしが見え見えになってくるという欠点もちょっと見えてきた。特におもなストーリーは全2作で語られているため、龍造寺からの視点ならではの新しい語り口、というものにはもっと魅力がほしいなと思った。

とはいえ、後半に大仕掛けな叙述トリックが一つあり(これを書いたらホントのネタバレになってしまうので書かない)、これはこれで評価できる。だが、今後のシリーズを語る上ではちょっと面倒くさいかも知れない。要約すると、とかくありがちな話になってしまうのは現代に特徴的な不幸か。