ちゃんとした追悼をしていなかったので、持っているカルロ・マリア・ジュリーニの唯一の映像、LDのブルックナー交響曲第8番を視聴した。1985年12月8日のストックホルムでの演奏で、オーケストラはワールド・フィルハーモニック・オーケストラ。ユニセフが55カ国、92のオーケストラから1名ずつを募って開催したチャリティー・コンサートの模様である。このコンサートが第1回だった。ちなみに12月8日は真珠湾攻撃の日であり、ぼくの母親の誕生日でもあるので、ちょっと感慨深い。

たぶん練習期間も大してとれなかっただろうし、本番までわずか4回のリハーサルで臨んだというから、この大曲を短期間でまとめ上げるのは並大抵のことではなかったろう。人徳というのだろうか。ただ、この演奏をもってジュリーニの本領発揮と受け止めるべきかは、やや留保したい点もある。

基本的な楽曲の構成というのはもちろん十分に達成されているのだが、イタリア人のジュリーニは基本がカンタービレの人である。いくつかの印象的なフレーズを熱く歌い上げているのだが、その間のつなぎの部分は案外シンプルに運んでいるようだ。画質・音質がもう一つなこともあり、ずいぶん音響の構成としては間引いたような印象がある。屋台骨だけがあって、全体を通じての伽藍のような響きの建築はそこにはない。テンポの運びがずいぶん速い割りにせかせかした印象がないのは、運び方がうまいのだと思うが、特に4楽章に入ってからの部分的なアッチェレランドは、やや性急な感じがした。

中世ポリフォニーは発達したイタリアだが、このブルックナーのような厚い響きの構成はイタリア人向きではないのかも知れない。