医療の分野に「侵襲」という言葉があります。
「しんしゅう」と読みます。
一般的には、手術や治療などの医療行為に伴ってもたらされる身体のダメージのことを言います。
「侵襲の大きい手術」と言えば、身体にとってダメージの大きな手術。
「低侵襲手術」は、内視鏡などで傷口が小さくダメージを少なくした手術のことです。
今日から大貫診療所に実習に来た医大生に対し、私から「4つの侵襲」の話をしました。
すなわち
「身体的侵襲」
「心理的侵襲」
「経済的侵襲」
「時間的侵襲」
の4つです。
身体的侵襲とは、先ほどの手術のように、身体に直接及ぼすダメージのことです。
我々医療者は、出来るだけ侵襲の少ない検査や治療から始めることを意識します。
その方が痛みや合併症が少なく、回復も早いです。
もちろん、緊急性の高い場合には、最初から侵襲の大きな治療から始めることもあります。
心理的侵襲とは、例えば「〇〇の検査をしましょう」と伝えた時に受ける心理的な負担のことです。
「癌の可能性があるので調べます」などと言われたら、結果が出るまで生きた心地がしない方もいます。
そのせいで食事が喉を通らなくなったり、眠れなくなったりして、本当に体調が悪くなるかもしれません。
経済的侵襲とは、検査や治療に掛かる費用による経済的な負担のことです。
その人にとって、それは本当に必要な検査や治療なのか。
単なる安心感を得るためだけに、不必要あるいは過剰な検査をしていないか。
経済的な負担が大きいと、結果として治療を中断してしまい、かえって病状が悪くなりかねません。
無理なく治療を継続できるような配慮が必要です。
時間的侵襲は、検査や治療に掛ける患者さんの時間的ロスのこと。
通院や検査の待ち時間に掛かる時間は、ある意味その人の人生の残り時間を割いてもらっている訳です。
いたずらに不必要な検査や効果のない治療に時間を費やすことは、その人の寿命を縮めていることと同義です。
医療者が検査や治療方針を立てるときは、この4つの侵襲を考えて、その人にとって最も必要と思われる方針を取らないといけないよ…。
でも患者さんは、一人ひとり歩んできた道のりも、置かれた状況も、経済状況も、人生観も違うから、しっかりと対話を重ね、信頼関係を築いていかないといけないよ…。
というような話を、学生さんにお伝えしました。
この4つの侵襲は、教科書に書かれていることではありませんが、いつも私が心掛けていることです。
そしてこの4つは、単独ではなく、相互に関係しあっていますし、患者さんが置かれた状況によって変化もします。
ミクロの視点とマクロの視点、それに時間軸も含めて考えるには、本当に幅広い視野と経験が必要とされます。
常に戒めながら患者さんと相対しないといけないな…と、学生さんと話をする中で改めて気付かせていただきました。
医療法人あつきこころ 大貫診療所(外科・内科)
理事長・院長 榎本雄介
http://www.atsukikokoro.com