シナン(下) (中公文庫) Kindle版夢枕獏 (著)

→上巻の感想はこちら
歴史小説を読んでいると、いつも「史実はどうだったのだろう」と考えてしまいます。
イスラムの世界は、西洋文化と違って個人の業績が記録に残りにくい世界です。
それでも、シナンの業績は確かに残っています。スレイマニエ・モスク、セリミエ・モスク――そして生涯で300以上の建築物に関与したとされ、モスク、病院、水道橋、隊商宿など多岐にわたります。
スレイマンの右腕だったイブラヒムとの関係は記録に残っていませんが、この物語ではシナンにとって重要な人物として描かれています。
また、友人ハサンとの友情と信頼は、シナンの人柄を静かに映し出していました。
皇帝スレイマンに最後まで信頼された結果が、スレイマニエ・モスク、そしてセリミエ・モスクという形になったのだと思います。
夢枕獏氏が、歴史の空白を埋めるように想像の世界で描いた小説――それが『シナン』でした。
以前読んだ『天空の舟』(宮城谷昌光)も、紀元前1600年という記録の乏しい時代を舞台にしていました。
史実だけでは語れない世界を、物語として面白く描けるのは、歴史小説家の素晴らしい才能だと思っています。
そして、実際のシナンも戦場にいたにもかかわらず、略奪や破壊に心を動かされることは一度もなかったように感じられます。
彼が向き合っていたのは、築くこと、残すこと――破壊ではなく創造でした。
イスラムとキリスト教の戦いは、悲惨な内容が多く語られてきました。
西洋ではイスラム世界が“すべて悪”とされることもありましたが、建築や文化を知れば、決してそうではないことが分かります。
そして、ついに、アヤソフィアを超えるセリミエ・モスクを見ました。
写真ですが、まさに“光の空間”でした。
それに比べると、アヤソフィアはやはり騒々しい印象があります。
イスラム建築の幾何学模様は、偶像によって神を描くのではなく、数学によって神を描いています。
私もエンジニアなので、その思想に深く共感を覚えます。
最後に――
シナンは、神を描かずに神を宿す空間を築いた。
そして私は、セリミエ・モスクの光と空間の中に立ったとき、こう感じました。
**「真実は光と空間の中に有る」**
――そんな物語でした。
Copilot作
