「近くのスーパーに食材を買い物に行く以外は、時間の全てを勉強の時間にあてました。勉強すれば絶対合格できるという確信を持って取り組みました。」
合格率1.2%の外国人で平成23年度(第99回)看護師国家試験の難関を突破されたエヴァー・ガメッドさんの言葉に、与えられた時間を精一杯使うことが最大の準備という確信を持ちました。
エヴァーさんは、昨年5月に来日して、日本語を学び、今年の2月の日本の看護師国家試験に1年足らずで合格するという偉業を成し遂げられました。皆さんが、理学療法士、作業療法士への道を確信を持って頑張っていく励みになればと、8月20日、栃木県足利赤十字病院に勤務するエヴァーさんを訪ねました。
「なりたい」という気持ちを、「なるんだ」という気持ちに高め、そして、勉強しなければ「なれない」、勉強すれば「なれる」という鉄則を心に刻んで欲しいと思います。
今年の3月27日、朝刊各紙は第99回看護師国家試験の合格者発表の中に、経済連携協定(EPA=Economic Partnership Agreement)に基づいてインドネシア、フィリピンから受け入れた看護師候補者3人が国家試験に合格したことを報じました。
経済連携協定協定=経済取引の円滑化、経済制度の調和を図るために投資や貿易を円滑にする国家間協定。その一環としてインドネシア、フィリピンから看護師介護福祉士候補を受け入れました。日本では無資格扱いで、看護師は3年以内に国家試験に合格しない場合は、帰国を強いられます。
2008年370人が来日、昨年度は受験された82名全員不合格。今年度はインドネシア人195名、フィリピン人59名が挑みましたが、インドネシアの2人とフィリピンの1人の計3人が合格しました
全体の国家試験合格率は約5万3千名が挑み、合格率は89.5パーセントでした。
エヴァーさんは、母国で看護師資格を取得。8年間勤務した後、サウジアラビアで5年8カ月間、救命医療にも従事され帰国された翌日EPAの制度を知られます。
高度医療技術を学びたいという看護師としての日常性に埋没することを避け、更に向上したいと、併せて10歳と8歳の二人の男の子供さんの将来の教育を考えたとき、進んだ国で学ばせたいという思いも重なり、子供さんの反対に耐え難い気持ちのなか日本に行くことを決意をされます。
立派な看護士として高い医療技術を習得したい、そして、出来れば二人も日本の教育を受けさせたい、そのことが強いモチベーションとなって、国家試験への過酷な日本での生活も、頑張る以外に解決はないと頑張っていかれます。
来日されるまで、日本語は全く話せない状況でした。合格の知らせの瞬間をお聴きすると「素晴らしい教育環境を用意して支えていただいた病院関係者の方々に感謝したい」と、合格の喜びよりも周りに感謝される言葉が真っ先に出ました。
スポーツの世界では、良い結果を出すためには、いい選手がいること、いい指導者がいること、良い環境(施設、支援、応援など)に恵まれていることの3つが必要条件と言われますが、エヴァーさんは、支えていただいた人々への感謝を何度も口にされました。皆さんも国家試験に何が何でもという気持ちを持って取り組めば、本学院は、充分な体制が整っているではありませんか。
一緒に来日したフィリピンの仲間との情報交換でも、足利赤十字病院の教育環境は他の受け入れ病院より格別であることを語られました。
何よりも、わからないことがあれば積極的にどんなことでも聞くというエヴァーさんの姿勢に、丁寧に対応される病院関係者の支えがありました。
国家試験までの苦労を、時々涙をこらえるように話されました。
「睡眠も4,5時間ぐらいだったと思います。日本語の難しさ、特に漢字の難しさに涙を流す日も何日もありました。漢字が夢にでてきました。」
看護師国家試験は日本人にとっても難しい漢字や言葉が多々あります。例えば、「創傷治癒遅延」は、傷の治りが遅いこと。褥痩(じょくそう)は、床ずれ、眼瞼(がんけん)は、まぶた、言い換えた方が患者にとってもわかりやすいものがかなり多い。
エヴァーさんが最も苦労したのも漢字。日本語の日記を書き、病院の先生方が毎日指導という恵まれた環境もありました。勉強のために書き上げた日本語は、大学ノートで100冊に及びます。
出来ない理由というのは、実に安易に用意されるものです。意志が弱いからと逃げないで、皆さんも国家試験に向けて平等に与えられた時間を深く使ってください。
エヴァーさんは、医療関係の映画を見ながら言葉を覚えました。まだ、会話は片言ですが、日本語検定2級のレベルまで上達され不自由な感じを与えないほどです。「まだ、言葉がでなかったり、簡単な言葉が聞き取れなかったりです。」
九州大学が前年度の試験を英訳したものを、期日された93人のうち,59人受験,35.6パーセントの21人が合格、母国語や英語での受験機会を用意しても日本の看護試験は難しい。当然予測されることですが日本の社会福祉制度などは回答率が低かったという報告もあります。
エヴァーさんは、英語に翻訳された国家試験に8割の正答で、看護知識が高いレベルにあったことも、関わる人々の応援に励みを与えました。
試験対策は、過去5年間の問題から傾向を分析して、問題を繰り返し解きながら対策を講じられます。午前中は外来病棟で看護助手をされ、午後からは看護師としての勉強も含めて深夜までの勉強が続きます。院長の配慮もあって12月からは一日15時間以上の猛勉強で栄冠を勝ち取られました。
日本語の勉強だけでも毎日3時間は欠かさない日が、今も続いています。「でも、まだまだ、日本語うまくならない」と顔をしかめられました。
エヴァーさんの苦労の話を伺って、何事も達成するのだという気持ちで、いかにモチベーションを高く持つか、私自身、年齢を理由に逃げなければ、たいていのことはできるのではないかという勇気をいただきました。
エヴァーさんの頑張りも凄いことですが、職場あげてエヴァーさんを支える風土が形成されていました。彼女の一生懸命な姿が、周囲の応援、支援を引き出したとも言えます。
卒業後の舞台を考えれば、この3年間、時間の全てを資格を取るためと、人間力を鍛えるために自分の人生で一番頑張るときです。