○○先生へ
先生 お元気でいらっしゃいますでしょうか
おかしな書き出しでございますことを深くお詫び申し上げます
実は感染症から一命をとりとめた後
どうしても先生の名が思い出せず
先生方に確かめたところ 仁友堂にはそのような先生などおいでにならず
「ここはわたくしたちが興した治療所だ」といわれました
何かがおかしい そう思いながらも
私もまた 次第にそのように思うようになりました
夢でもみていたのであろうと
なれど ある日のこと
見たこともない奇妙な銅の丸い板(※象山からもらった包帯の袋と10円玉)を見つけたのでございます
その板を見ているうちに
私はおぼろげに思いだしました
ここには 先生と呼ばれたお方がおられたことを
そのお方は
揚げだし豆腐がお好きであったこと
涙もろいお方であったこと
神のごとき手を持ち なれど 決して神などではなく
迷い傷つき お心を砕かれ ひたすら懸命に治療にあたられる
「仁」をお持ちの人であったこと
私はそのお方に (※仁の咲へのプロポーズシーンのオーバーラップ)
この世で一番美しい夕陽をいただきましたことを 思い出しました
もう名も お顔も 思い出せぬその方に
恋をしておりましたことを
なれど きっとこのままでは
私は いつか全てを忘れてしまう この涙のわけまでも失ってしまう
なぜか耳に残っている「修正力」という言葉
私はこの思い出を無きものとされてしまう気がしました
ならば と筆を執った次第にございます
私がこの出来事に抗う術(すべ)はひとつ
この思いを記すことでございます
○○先生
改めて ここに書き留めさせていただきます
橘 咲は 先生をお慕い申しておりました
橘 咲