【正論】
日本財団会長・笹川陽平 新しい北極海、急ぎ国家戦略を
北極海に対する関心が高まっている。夏場の海氷面積は20世紀後半の半分にまで減り、航路だけでなく海底に眠る膨大な原油・天然ガス開発も動き出し、米国、ロシアなど沿岸国は、「北極海は通航不可能」を前提としてきた従来の軍事戦略の見直しに入った。
シーレーン防衛、新課題に
これに対し、日本は学術研究こそ先行したが、航路や資源確保に向けた取り組みは後発の中国、韓国にも大きな後れを取る。尖閣諸島や竹島問題に関心が集まっているが、北極利用が高まれば、新たなシーレーン(海上交通路)の防衛や国際海峡である津軽海峡の管理など新たな課題も出てくる。
関係省庁が国土交通や外務、総務、防衛など10を超す縦割り行政で国として北極海戦略の大綱を打ち出すのは難しい。海洋基本法成立(2007年)に伴い官邸に設けられた「総合海洋政策本部」こそ司令塔となるべきだ。本部長の野田佳彦首相が先頭に立って新しい北極海に向き合うよう望む。
この夏、北極海の氷面積は341万平方キロと過去30年間で最小を記録し、20~30年後の夏場にはすべて姿を消すとの見方が強い。古い氷が硬く積み重なった多年氷に代わって、砕きやすい一年氷が増え、砕氷船が先導すれば通年の航行も可能となる。
北極航路は15世紀の大航海時代から夢の航路として注目され、北東アジアと欧州の距離はスエズ運河、マラッカ海峡を通る南回り航路に比べ40%も短い。ソマリア沖の海賊問題のような不安定要素も少なく、原油や天然ガスの推定埋蔵量も世界の20%を超える。日本にとって南回り航路の代替路だけでなく、エネルギー資源の大半を中東に依存する不安定な状況を解消する重要な海域ともなる。