【正論】
双日総合研究所副所長・吉崎達彦 「原発ゼロ」がいかに愚の骨頂か
こんなアンケート調査があったら、あなたはどんなふうに回答するだろうか。
「10年後のあなたの年収は、1000万円と500万円と300万円のうち、どれが一番いいでしょうか?」
≪付帯条件示さずアンケート≫
誰だって1000万円と答えるだろう。が、実際の世の中では、高い年収は必然的に激務やリスクを伴うものである。逆に、300万円の仕事は、気楽で安定しているかもしれない。その辺は常識の範囲内だが、アンケート調査の信頼性を高めるためには、付帯条件をすべて明記したうえで、希望年収を尋ねるべきであろう。
ところが、野田佳彦政権は、「2030年の原発比率は0%と15%と20~25%のうち、どれがいいですか?」とだけ国民に問うた。この場合、「0%がいい」と答えるのは自然な人情であろう。あけすけにいえば、原発が好きな人なんて、よほどの変人以外にいるわけがないだろうし、何より「命には代えられない」という理由は重いのである。
ただし、日本が「原発ゼロ」を方針とする場合、どんな付帯条件がつくか、を考えなければならない。
原子力を学ぼうとする学生は減るだろうから、将来の人材確保に困るかもしれない。東芝や日立や三菱重工などの原子力産業が、ビジネスから撤退するかもしれない。その場合、福島の廃炉は誰が行うのか。そして、除染や補償はどうするのか。「原発ゼロ」を決めたとしても、原発事故の後始末は数十年がかりで取り組む必要があるのだ。
原発なしの日本経済が、今後の少子高齢化社会を支えていけるのかも検証する必要がある。増え続ける医療費や年金のコストを賄うためには、一定の経済成長が必要である。だが、電力使用に制約がある条件下では、企業の海外移転も進むだろうし、税収も減ってしまう恐れがある。