手術から4ヶ月、退院後4回目の外来。


術後4ヶ月が経ちもう6月、コンタクトにしてしばらく経つけれど、もみあげの創部だけ、開いたり閉じたりを繰り返している。

この閉じ切らない部分というのは長さにすると1.5~2センチ程度で、場所も、もみあげの上の方なので、メガネやマスクをつけていなければ日常生活には大きな支障がないのだが、触れるとズキズキするし、開いてしまうと、浸出液が漏れてきて、ピリピリする。朝起きた時にもみあげ付近の髪の毛がカピカピになっていることもある。

30針くらい縫った端の部分なので、最後の方だけ閉まらなくなった壊れたファスナー感がすごい。

 

受診

早速もみあげの様子を診てもらうと、主治医が「う~ん。なかなか良くならないなぁ。なんだろうね。ちょっと確認してみようね」とピンセットで傷口を確認し、不意にかさぶたをはがしてくる。

 

突然襲われた鋭い痛みに「ま”っ!!!」という声にならない声を漏らしながら、反射的に主治医を睨みつける私。

 

上から私を見下ろす主治医。

 

張り詰めた空気が二人の間に漂う。

 

見つめ合う二人。

 

沈黙。

 

という、おかしな時間の経過にお互い笑ってしまい、空気が弛緩したところで現状を説明してもらう。

イラストで説明すると、傷口がちょっと深いために、かさぶたがとれると、図の左のVような形になってしまい、またVの形のところにかさぶたができるので、そのかさぶたが取れても、傷口の中からまた浸出液が出てきてしまう、ということを繰り返しているらしい。

このVが自然にふさがって、右のイラストの状態になるのを待っていたが、なかなかふさがらないということだ。

 

主「ちゃんと閉じないから、キレイに治すには、ここの部分だけもう1度切って、キレイにして縫い直すのがいいかな。」

 

弛緩した空気がまた張り詰める。

 

私「え・・・・?・・・今から?」

 

主「うん、今から。いいかな?」

 

私「イヤっ!!!

 

主「・・・・・・」

 

私「・・・・・・って言ったら?どうなりますか。

 

主「傷口からバイ菌が入ったら、膿んで頭全体が腫れてしまって、また開頭して・・・

 

私「やります!!

 

主「では、注射で局部麻酔してから切るので、処置室の準備できるまで外で待っててください」

 

フラフラと診察室から退出し、長椅子に腰を掛け、絶望の淵に立たされた私は(立ったり座ったり忙しいな)まだ何もされていないのに、すでに茫然自失である。

 

好きな人が図書委員になったので、私も!と図書委員に名乗りを上げる中学生のような「やります!」を繰り出してしまった。

 

もうダメだ。

 

完全に油断してた。また縫うなんて想像してなかった。よもやよもやだ。絶対痛いんだろうな。だって既に痛いもの。でも、この部分だけって先生言ってたし、ほんの少しちくっとするだけで済むかもしれない。開頭手術に比べたら全然大したことないし。麻酔してもらえるし。うん、大丈夫。問題ない。

 

いや、絶対痛いって。でも、先生の言葉に被せるように「やります!」って言ったのは私なんだよね。それに縫えば良くなるわけだし、ここはひとつ、“肉を切らせて骨を断つ”必要があるのではないか。いや、本当に肉を切られるのにこの例えはややこしいか。

と、完全にこじらせた自問自答をしているうちに、処置室に招き入れられベッドに横たわる。

 

心の準備はできていない。

 

主「じゃあ、ちょっともみあげの付近の髪の毛剃りますね。」

 

私「せっかく伸びてきたのに。また剃るんですか?」

 

こじらせている私は文句が多い。

 

主「うんうん、ごめんね。ササっとやるから。」

 

ササっと剃ったって、ササっと生えてくるわけじゃない。

 

主「じゃ、麻酔打つね。ちょっと痛いかな。」

 

私「・・・ぃ・・・痛い・・・」

 

しばし待ち時間。

その間に看護師さんが売店に走って購入してきたらしいゴムで、邪魔な髪の毛を結ばれる。主治医は男性なので、慣れてないからおかしな結び方になっちゃった、などとのんきなものである。

 

主「じゃ、はじめますね」

 

切る。

 

私「痛っ!痛いっ!

 

主「あれ、痛い?じゃ、麻酔足そう。」

 

追加の麻酔も痛い。

 

待つ。

 

縫い始める。

 

私「痛い!!

 

麻酔が効いてない。

 

主「え?痛い??

 

私「痛い

 

主「本人がそう言ってるんだから痛いか。えへへ

 

私「痛い!ひどい!!痛いしひどい!

 

痛みと一緒に先生の物言いにまで文句を言う私。

 

主「もう少しで終わるからね。2針だけだからね。」

 

私「・・・・い・・い~た~い~・・・・・・」

 

痛みをこらえるために両手が握りこぶしになっているのを見た主治医

 

主「痛くて手もグーってなっちゃうねぇ。」

 

私は子供ではない。

 

私「言い方!」

 

主「へへへ。はい、終わったよ。」

 

大人の治療とは思えない会話の中、縫合完了。

背中から後頭部まで冷や汗でぐっしょりである。

 

その後、手鏡で傷口を確認させてもらったが、箇所が微妙過ぎてよく見えない。見えるのは、じゃりン子チエ(ひどく古いな)のようなヘアスタイルで涙目になっている自分だけだ。

 

終わった後に、そうだ、私、歯医者の麻酔も効きにくいんだった、先に言えば良かったと悔やんだが後の祭りである。今日は洗髪を控えるように、明日また消毒に来るようにと言われ、汗でぐっしょりの後頭部のまま帰路についた。