手術後。

「コトムさん、終わったよ」と主治医に肩を叩かれ目覚める。と、同時に電話を夫に繋いでくれていた先生が耳に電話を当ててくれた。

まだ、何が何だかわからないけど、手術が終わったんだ、ということだけは認識し、ごしゃごしゃ何かを言った後(自分でもよく覚えていない)に「夫さん、手術終わったよ~。ありがとうね。」と伝えたことだけは覚えている。
主治医から夫に「思ったより早く済みました。取れる箇所は全部取ってほにゃらら~」という説明が聞こえたので、そうか、少し早めに終わったんだということを理解し、そのままICUに運ばれた。手術室に入ったのは午前8時半だが、実際に手術に入るのは9時半、そこから6時間程度を予定していたのだが、午後3時前には起こされた。ICUに移されて初めて、自分が色々な管に繋がれていることを自覚して、ああ、私、手術したんだなぁと実感。

この時点での体感HP値は40。ICUに1泊することになっていて、この日が1番キツいということを先輩方のブログで学んでいたつもりだったが、心身ともにやっぱりキツかった。
 

覚醒するにつれて、頭の痛み、全身の不快感、喉の渇き、悪寒が体を襲ってくる。
絵心がないから、危篤状態の金太郎みたいになってしまったのと、実際より管の量は少ないが、俯瞰図としてはこんな感じ↓だったのではないだろうか。



足には血栓防止のためにフットポンプが装着されていて、これがもっこもっこと動くので、どんどん痺れてくる。あまりにも下半身の痺れが続くので、看護師さんに伝えると、外してくれて、だいぶ楽になる。HP45まで回復。
 

絵にはないが、右腕には血圧計がつけられていて、定期的に圧力がかかるのすらキツい。腕を締め付けられて、痛いわぁと思ってると「・・・プシュー」って空気も気も抜けるような音。バスでも止まったんか。私の弱った心を盛り上げてくれる工夫をしてみろよ!と心の中で、全く生産性のない八つ当たりしてる横でまたプシューである。針で穴開けてやろうか?HP40まで減退。

喉の渇きもひどかった。「水をください」と訴えるも「水は飲めません」とドライな看護師さんに却下される。さらに手術で喉がやられたらしく、咳が出る。咳が出ると、頭に響くので、なるべく咳のでない呼吸をしなければ、と思い、ほぉうぅ~ほぉうぅ~という謎の呼吸を繰り返してみたものの全く効果がない。こんな状態で朝までいったら、私、絶対にミイラになりますけど!責任とってもらえますか!?看護師さん、あなたも水がもらえなくてそんなドライになったの?あ、あなたミイラなのね!?私の仲間なの!?と荒れ狂った気分で過ごしていると、夜勤の看護師さん「飲むのはダメですけど、うがいはできますよ」。昨日に続いての

WATER!!!
飲めなくても、喉が潤うだけで心も穏やかになり、さっきのミイラ思考を反省。HP60まで回復。

 

悪寒。38℃くらいまで発熱したようで寒さを訴えると、でっかい吸水パット風のものを1枚かけてもらえた。こんな小さな布切れに何ができる!?と思ったが、結構暖かくてHP70に回復

 

ずっと首元が濡れている気がして、触ってみると、結構な量の血が手についた。どうやら右の耳の後ろあたり、固定器具を差し込んでいた箇所から出血してる模様。見てもらうと、看護師さんが2名きてくれたが「とりあえず何かでおさえておけば止まるんじゃね」的な会話で硬いガーゼのようなものを押し当てられ応急処置。HP60

 

そして、予想だにしなかったのが、緊急で運ばれてきた(と思われる)子どもの泣き声。これが1番キツかった。子供の全身全霊をかけた泣き声は本当に辛そうで、こちらの心も痛くなる。と、同時に、その泣き声が続くと、心身ともに余裕のない私は、眠りたいのに眠らせてもらえないことで、イライラするのである。幼いのにICUに入る事態になってしまったこと、辛そうな声に悲しくなる心も本当なら、いつまでも続く泣き声にイライラしてしまう心も本当。

そうなると、自分の心の狭さに嫌気がさし、私はなんて卑小な存在なのかと自己嫌悪に陥る。これのループが一晩続いた。自分がたいしたことのない人間だとわかっていたつもりでも、逃げ場のない状況の中、自分の醜さや小ささを突き付けられ続け、心身ともにどんどん削られていった。HP10

 

ようやく長い夜が明けて、元気な看護師さんが登場した頃には、しおしおのぱぁである。CT撮影のあと、一般病棟に移れるよ、の言葉でHP20まで回復。

 

血糖値を測るために指先に針を刺されたが、血が出てこないようで再度チャレンジ。手元を見ると、どうにか血を出そうとして、ぎゅうぎゅうと私の指先を握りしめる看護師さんの姿は、トゲでも刺さっとりますか?と聞きたくなる風情。どうにか絞り出した血液を確認すると、血糖値が低すぎて、移動させられないとのこと。HP5まで激減。

どうにか血糖値を上げないといけないから、とブドウ糖のタブレットを干からびた口の中に押し込まれ、再計測。上がらない。・・・もうだめだ・・・HP2。計4つのタブレットを咀嚼し、指にも計4つの穴をあけられようやく血糖値上昇。この時の心境は、“無”である。

 

主治医の先生、看護師さん、家族や友達、全員に心から感謝。

余談だが、術後、夫に感謝の言葉を伝えたつもりが、かっさかさの喉でろくに声も出ない状態にマスクをつけさせられているので、ほとんどその声は届いていなかったようだ。
後日、姉から「夫ちゃんが手術終わったって電話くれたけど『声聞けたの?』と聞いたら『うん、でも、ちょっと何言ってたかわからなかった笑』って言ってたぞ。私はあのコメントが面白くていまだに思い出して笑ってる」とのこと。夫よ、あなたはサンドウィッチマンの富澤なのか。

 

ICUを出た時の私のHPは1でした。