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Kou

音楽雑感と読書感想を主に、初老の日々に徒然に。
ブログタイトル『氷雨月のスケッチ』は、はっぴいえんどの同名曲から拝借しました。

天智天皇の大津の宮は672年に廃都となった。宮廷歌人柿本人麻呂はその十数年後に大津の地を訪れたが、廃都後の僅かな間に旧都は見る影もなく荒れ果てており、宮殿の跡がどこであるかさえわからなくなっていたという。あたり一面に生い茂る春草を見ながら人麻呂が詠んだ長歌は広く知られている。
 
それから千三百年余年が経ち大津の宮の地は現在、大津市錦織と呼ばれている。西側に立つ山並みからの緩やかな傾斜地に所狭しと立ち並ぶ住宅街にかつての繁栄の面影はない。宮の史跡指定地が住宅の間にところどころ点在するが、ひとつひとつを巡ってみても、かつてここに都があったとはいくら想像を逞しくしても叶うことはない。指定地とはただの空き地でしかなく、小さな説明板の他は太極殿などの柱を模した低い丸太がひっそりと列を成しているだけ。模柱のあるものは朽ちかけその周囲を取り囲むように多くの雑草が群生している。これらの草の群は、人麻呂が見た春草の面影をはるか古代からの時を経て今に継いでいるようにも思える。