今朝の読売新聞は、平成の世があと1年ということで、特集を組んでいます。そのなかに作家の曽野綾子さんの寄稿文があり、天皇皇后両陛下との私的なおつきあいを明かしています。両陛下の私的な一面が垣間見える、たいへん貴重な話だと思います。「ちょっといい話」として、一部を引用させていただきます。
天皇、皇后両陛下は年に数回、三浦半島に構えた我が家にいらっしゃる。皇后さまが聖心女子大の3級下だった縁もあり、夫で作家の三浦朱門(昨年2月死去)ともども、 おつきあいさせていただいてきた。
今年2月には、三浦大根の葉っぱを使った料理をお出しした。陰干しした葉をゴマ油でいため、唐辛子としょうゆで味付けした素朴な料理だが、熱いご飯にのせるとおいしい。当時、我が家で一番おいしいものをお出ししないのは間違いだと思ったのだ。私は小説家。我が家の内情や大根農家の景気の話など、庶民の暮らしをお伝えするのがささやかな役目だと自負している。両陛下はこうした話にも耳を傾けてくださる。
魚類学者である天皇陛下に「葉山のウミウシは食べられないのですか」と聞いたこともある。「それは無理じゃないでしょうか」と真面目にお答えになった。日系ブラジル人のお手伝いさんを紹介したときには、立ち上がって挨拶された。陛下はアカデミックで、人情にも通じ、ジェントルマンでいらっしゃる。
皇后さまは2007年の記者会見で「身分を隠して1日過ごすなら」と問われ、学生の頃よく通った神田や神保町の古本屋さんへ行き、もう一度本の立ち読みをしてみたい」と答えられた。そうした夢の一端の実現をお手伝いしたことがある。書店の関係者や警察に協力を求め、15年6月、お忍びで東京都渋谷区の大型書店にご案内した。皇后さまは午前10時の開店から約1時間、一般客に紛れて1人で店内を歩かれ、音楽など好きな本を手にとられた。児童書コーナーで時間をかけてしまわれ、後で聞くと文房具の売り場もご覧になりたかったそうだ。それでも半世紀ぶりの立ち読みを楽しまれていた。