市川崑監督の『おとうと』(1960年)へ捧げる作品です。
鍋焼きうどんを食べる場面と腕をリボンで繋いで眠る場面が、市川作品から継承されたとのことです。
しかし、私の様に、別の作品を思い起こした方も多かったのでは?
数年振りに現れて、泥酔の挙句、身内の結婚式をメチャクチャにしてしまった鉄郎。
それでもなお、厄介者の弟を気遣う、堅実な姉・吟子…
これはもう〝寅さん〟です。
20年振りに現れて、泥酔の挙句、さくらの見合いをメチャクチャにした寅次郎…
シリーズ第1作目、寅次郎の迷惑ぶりを物語るエピソードです。
吟子の亡き夫が、『鉄郎くんは、一度も褒められた事がないんじゃないかな?』と言ってますが、
さくらの夫・博や御前様が、同じ台詞を言っていました。
前半では、いたるところで寅さんのデジャブーを感じます。
前半で〝鉄郎=寅次郎〟と摺り込まれ、後半は〝寅さんの最期は、こうなったのかも?〟との想いで見ていました。
寅さんの最期については、シリーズ5作目の頃に構想されており、「幼稚園で働く寅さんが、子供達と遊んでいる最中に、心臓マヒで死んでしまう」という話だそうです。
しかし〝社会の底辺の人々や弱者を忘れない〟という監督の考えが色濃くなったシリーズ後半の流れからすると、寅さんの最期については、現実的で厳しい話に変わったのではないか?
鉄郎の最期は、寅次郎の最期に重なるように思えてなりませんでした。
映画の最後の会話
「鉄郎さんは、どうしてるかねぇ?」
「きっと元気よ!」
「案外、ひょっこり現れたりして!」
これはもう『寅さん』です(笑)