観た、『フルメタル・ジャケット』 | Joon's blog

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どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『フルメタル・ジャケット』を観ました。

 

アメリカ海兵隊を志願した若者たちが訓練キャンプにやって来る。

ハートマン軍曹の厳しい訓練や叱咤は脱落者を生みもしたが、今や一人前の兵士に成長した彼らはベトナムに送られる。

従軍記者となり前線の取材を命じられた“ジョーカー”は、訓練所での同僚“カウボーイ”と再会、彼の隊に加わりフエ市を目指す。進軍を続ける中、手強い狙撃手に遭遇した一行は次々と犠牲者を出し……といったお話。

 

ベトナム戦争を題材にした、スタンリー・キューブリックさんの監督作品です。

80年代に氾濫していたベトナム戦争モノに、キューブリックさんほどの巨匠が手を出すのは意外です。流行に乗っかったみたいで俗っぽいところもあるんだなぁと(実際は戦争映画がやりたいだけで、特にベトナム戦争にこだわっていたわけではなかったそうな)。

かつ、ベトナムで起きていた真実を描く!という聞き飽きたような売り文句も掲げていたんでしょうが、ベトナムに向かう前の事から、新兵が訓練を始めて一端の兵士になるところから描いているのが本作の出色たる点であり、他のそれらとは一線を画するところです。

逆に、舞台がベトナムに移ってからの展開は、まぁまぁ上質な戦争映画程度の出来に見えてしまいますが…。

 

そんな前半の新兵の訓練こそ本作の白眉であり、最大の見どころです。

そして、その見どころの全てを持ってっちゃってるのがハートマン軍曹のド強烈なキャラで、青っ白い若造を一人前の兵士に育て上げるためのシゴキが最高です。

慈悲や愛情なんてヌルいものは1ミリもなく、人格否定に加え体罰も上等、この世にある罵り言葉を駆使して訓練生を徹底的に鍛え上げます。あまり表には出さないけど優しい一面も持ち合わせていて~なんて媚びた面なんか絶対に見せない、まさに人間の姿をした鬼と言っても過言ではありません

ちょっと威圧されてシュンとなるような打たれ弱い昨今の小僧どもには、ハートマンのような指導がそろそろ必要ですよ、割とマジで。

ただ、何だかんだでハートマンは過剰に厳しい指導をするものの、訓練生よりも早く起きたりランニングも一緒に走ったりで、口うるさいだけで後ろでふんぞり返ってるようなタイプではないんですよね。

そういうところが尊敬できるとか偉そうな事を言い出しそうな奴もいそうだけど、ウジ虫以下の俺たちにゃ、そんなご立派な感情なんか無用なんだぜ、Sir, yes sir!

 

軍への入隊を希望する若者は数あれど、あれほどの数がいれば個人差は生じます。

その中で、抜きん出た落ちこぼれはゴーマー・パイル=ほほえみデブことレナード(本名が明らかになった訓練生はこの人だけ)。あだ名の通りのデブで、常に口は開きっぱなしでニヤケ顔がデフォルトであるだけでなく、運動能力も鈍い事からハートマンに目を付けられます。

レナードが足を引っ張ったために連帯責任を負う羽目になり、訓練生たちのリンチに遭う事も…。

これを機にレナードは一変、班長の“ジョーカー”の手助けもあり、訓練にも付いて行けるようになっただけでなく、ハートマンに射撃の才能も認められるように……なったものの、その進歩は決して健全ではなく、精神を代償にしたものでした。

“ジョーカー”にはそこそこ心を許しているけど、完全に自分の殻に閉じこもってしまいます。序盤のユルい顔付きなんか微塵とも感じさせない、完全に壊れた人間のような表情が怖いです。“ジョーカー”やハートマン以外の人とはどう接していたのか見てみたかったですね。

ベトナム戦争を経験した兵士は精神を病んで帰還する事が多いようですが、本作を観ると、出兵前からそんな土壌が既にできあがっていたように思えます。

 

そんな訓練を終えてお話は後半に突入し、いざベトナムへ。

ベトナム戦争の戦場と言えばジャングルというのが定番ですが、廃墟と化した市街地を舞台にしているのが新鮮です。

…が、ここからは他のベトナム戦争モノより抜きん出たところが少ないのが惜しく感じます。

クライマックスのオチになる敵の狙撃兵との決着も衝撃的に感じるものの、ちょっとドラマチックすぎてるかな? これも含めてベトナム戦争の真実ではあるんだろうけど…。

 

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Blu-ray版の映像特典は、関係者が当時を振り返るドキュメンタリーを収録。吹替版は収録されていません。

一応、吹替版も作られてはいるようです。

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…が、個人的には本作に吹替版なんてのは無粋に思えてね。

特に前半の、あの鬼気に満ちた空気を吹き替えで再現なんかできんのかいな?と。アニメ畑の声優を(あまり)使っていないのは好印象ですが、まぁ見る気はしないよね。

 

これは日本限定の話として、字幕がいいんですよ。

本作の字幕を担当した原田眞人さんは、わざわざキューブリック監督の監修を受けた上で限りなく原語に近付け、日本国内に向けた忖度などない翻訳をしたという話は割と有名です。本来なら全ての洋画にあって欲しいエピソードですね。

それ故に、出てくる言葉の過激さは唯一無二。

ネット以外の媒体で“マンコ”という文字の並びなんか、なかなか目にできませんからね(笑)。

ただ、卑猥なワードがポンポン出てくるのはいいとして、その使い方はビミョーなものが少なくありません。

「頭がい骨にマンコしてやる!」とか言われても、意味不明すぎてポカーンですし…(笑)。