- 奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録/石川 拓治
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タイトルからもわかるようにリンゴの生産に関わる話です。それだけだとそれほど興味がわかないかも知れませんが、何かをやりとげるということの素晴らしさに触れて、一気に読んでしまいます。
リンゴというのは昔から農薬をまかなければ出来ないとされていた果物だとあります。私は果物屋の息子でしたが、それは初耳でした。確かにその昔からリンゴは親父がよく拭いてから店先に並べていました。確かにリンゴは農薬にまみれて白かったのを思い出します。
そんなリンゴを無農薬で育てることに、全てをかけてしまったのが、木村さんで、文字通り死ぬ思いでそれに取り組んでことがわかり、とても感動的です。もちろん単純なお涙頂戴ということではなく、ここまで取り組めるというひたむきさに目頭が熱くなってしまうというか、自分もこうあるべきということを痛感するからです。
リンゴに限らず、人間は自然を自分の管理のもとに置こうとして失敗する。人間は自然の手伝いしかできない、ということ。いまの環境問題なんかも視点を変えてみると多少傲慢なところがあるのかも知れないです。
木村さんは益虫は怖い顔をしていて、害虫は優しい顔をしているといいます。害虫は草食で、それを食べる益虫は肉食になるのだから、それはそうだと。人間の都合で葉を食べるのが、害虫でそれを食べるのが益虫と言っているだけのことだと。
他にも目からウロコなことはたくさんあって、農薬ってそれに頼ってしまうと楽だからいろんなことを考えなくなる、というのも、なるほどな、と。木村さん自身すごく効率主義者だったそうですが、いろいろ考えが変わったといいます。先日紹介した伊坂幸太郎の「モダンタイムス」、あれは小説ですが、いろんな視点でモノを見る、考えることをやめない、というテーマはこの本と重なる部分があって、近しいときに読んで、「考える」ことの重要性をさらに感じます。
そして最後にこの本の中で木村さんが話している言葉で好きなものとひとつ。
「バカになるって、やってみればわかると思うけど、そんなに簡単なことではないんだよ。だけどさ、死ぬくらいなら、その前に一回はバカになってみたらいい。同じことを考えた先輩として、ひとつだけわかったことがある。ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合うことができるんだよ、きっと」
ここにある「ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合う」はとてもいい言葉です。世界的にも誰もやったことがないことにこだわってそれを成し遂げる、簡単なことではないですが、この「いつか必ず」という思いはとても重要だと改めて思います。