結婚式。
あの日のことを考えると、
胸が苦しくなる。
WBCの決勝戦の日だった。
披露宴の最中に、おじさん達が隠れてラジオ聞いていて、
日本が優勝したよって大騒ぎ。
夜のニュースでイチローが「人生最高の日です」って言ってたな。
あんただけの最高の日じゃないのに。
画面の向こうの人に、私は腹を立てていた。
そんなふうに怒ったりしたんだから
やっぱり私にとって幸せ日だったんだろう。
結婚までの経緯はともかく、
誰もに祝福される1日は確かに格別の味わいだった。
だからこそ、思い出すたび心臓が抉られるような気持ちになる。
「お前のお姫様ごっこにみんな付きあわせたかったんだね」
タカキは何度も言った。
結婚なんてしなきゃよかった、ケンカして、私がそう喚くたびに。
「でもみんなの前で誓ったんだよ。もう2人だけの問題じゃないんだよ」
最後は呆れたようにそう言い捨てた。
そうだね。
私の結婚式はそれなりに素晴らしい1日だったけれど、
私だけの結婚式でしかなかった。
そして、それが当たり前だと思っていた。
「健やかなる時も病める時も愛することを誓いますか?」
的な質問に、予定調和に乗ったまま
「はい。誓います」
と答えればいいと、軽く考えていた私だったけれど、
実際、想像以上の躊躇をしたのは私のギリギリの良心?
いくら真似事のようだと言っても、一応神様がいるという設定と
数十人の親戚、知人の前で嘘をつくこと。
あの時私は数秒だけ迷った。
でも、結果的には引っかかる程度の反応のみで、
すんなりいけしゃあしゃあと出まかせを吐いた。
髪につけた花がずれてしまわないかとか、
祭壇の下からシャッターを切り続けるカメラマンを見ては、
自分の顔がちゃんと映っているかとか、
そんなことにだけ、私の心は集中していた。
披露宴では、ヒロちゃんのミニライブをやった。
ヒロちゃんは弟の彼女で、歌手を目指している
持ち歌を2曲と、私のリクエストで「秋桜」
子供の頃から、自分の結婚式では誰かにこの歌を歌って欲しいと憧れていた。
煌く様な一日だった。
あの一日の幸せさで、私も人並みに幸せになれるのだと、
すっかり勘違いをしてしまった。
皆が憧れるような素敵な奥さんになって、
仕事もバリバリこなしながら、子供も作って、
幸せな家庭、幸せな未来。
そんなものが私の射程距離にあると、まるっきり信じ込んでしまった。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
3月21日は、私とタカキの2回目の結婚記念日だった。
去年は披露宴をしたレストランへ、2人で食事に行った。
1周年のディナーご招待がついてたからなんだけど。
あの頃はそんなに悪くもなかった。
病気がわかって、色々不安になったり心細くなったり、
そんな中で私が頼りにするのはタカキしかいなかった。
人並みの家庭というものが、私にも作れるはずと、
まだ期待は捨ててはいなかった。
期待だけしたって何も叶わないのに。
実行が伴わず、いつか自然に全てが当たり前の流れになると、
そう信じ込んでしまうのがありがちな弱さ。
今年はもちろん、その日に特別な意味はなかった。
最近は、10時より前に家へ帰ることなんてほとんどない。
当たり障りの無い数言の会話の中で、
記念日の名前が挙がることはなかったし。
タカキは覚えてすらいないんじゃないかな。
男の人なんてそんなものだというし。
ともかく、覚えていないのをいいことに、
私はいつものように遊び歩いていた。
何度も誘われては断っていた藤川君とご飯を食べて、
酔っ払い半分で神田あたり上機嫌で闊歩していた。
隙だらけだったから、どさくさに紛れてキスされた。
「今日は帰らなくていいじゃん」
また、リベンジ。
この間もさんざんゴネたくせに。
面倒臭いなぁと思う。
こういう時、本当に面倒臭い。
キスなんて誰とだってできる。
断る方が面倒臭い。
朝まで一緒にいるのは断るより面倒臭い。
だけど、私は断るのがとっても苦手で、
だからここまで追い詰められると面倒臭くてどうしようもない。
結局いつのまにか、断るほうが面倒臭いような気もしてきて、
まぁ別に減るもんじゃないし、なんて手垢にまみれた言い回し、
頭で反芻しては開き直ってみる。
そんなことを繰り返していれば、
立派に安易で軽い女が完成する。
安易で軽い女って、永遠の固定キャラクターだよね。
必ずどこの世界にも存在する。
求められて存在するのか、
そうとしか成れずに存在するのか、
もしくは何かの成れの果て。
減るもんじゃないし
って、自分に言い訳して。
でもね、減るもんなんだよ。
最近になってやっと気がついたんだ。
確実に減るもんなんだよ。
言葉に出来ない何かがちゃんと減っている。
そしてそれは二度と戻ってこない。
一度安易に体を許すたびに、
心のどこからから何かが削られていく。
まぁ、こんな複雑なことを、ちまちまと考えたわけでもない。
そんなに遊び慣れてるわけでもなさそうな藤川君の攻撃は
巧みに逃げ道を作らせず、ってほどでなく、
「また今度、また今度」
呪文を唱えるように繰り返し、曖昧なキスで手を振って逃げた。
なんだか疲れちゃったな。
なんだかもうみんなどうでもよくなってきた。
去年の夏から今まで、
一生懸命探してきたものはなんだったんだろう。
私は何が欲しいんだろう。
きっと欲しいのは諦め。
大袈裟な言い方になるけれど、
私は余生を考えなくてはいけない。
残りの人生どう生きていくか。
私が選んできた道に間違いが無いこと、
これ以上の選択はないこと、やり直せないこと、
それを知って、“これでいいんだ”と歩いていく力。
格好いいような言葉を並べてみても、簡単にまとめてしまえば
私は諦めたい。
あの夏が終わったら、私は全てを諦めようと決めた。
今でも目を閉じれば浮かぶ、
大切で愛しかった時間の数々。
それらを持って、もう迷わないで、
私が選んできた道を静かに進んでいこうと、
そう決めて始まった夏休み。
結局それすらも途中で投げ出して、
自業自得とはいえ、私は着地点を見失った。
もう降りたいよ。
こんな不毛な毎日になんの意味もない。
私は帰らなくちゃいけない。
タカキのところへ帰らなくちゃいけない。
幸せかどうかはわからないけれど、
どうせ私に幸せなんて感情は理解できないし。
諦めきれない私の感情が、常に私を苦しめる。
2年前、私の結婚式。
ヒロちゃんが、歌ってくれた、「秋桜」
「明日嫁ぐ私に 苦労はしても
笑い話に時が変えるよ 心配いらないと笑った」
なにかにつけて、あのフレーズが頭を過る。
そうなのかもね。
今こんなに足掻いても、暴れても、
時が経てばくだらない悩みだったと思うのかもしれない。
中学生の頃、死ぬ程悩んで、泣いて、騒いだ恋の数々
振り返れば、そんなことに時間を使ってたなんて
憤りたくなるくらいの些細なこと。
10年後も、20年後も、私はタカキと一緒にいて、
疑う隙もないくらい、ずっと幸せでした。
これが私の人生なんです。
と、静かに思えるんだ。きっとそうに違いない。
だから諦めたい。
全部諦めて受け入れたい。
大人にならないといけない。
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あの日のことを考えると、
胸が苦しくなる。
WBCの決勝戦の日だった。
披露宴の最中に、おじさん達が隠れてラジオ聞いていて、
日本が優勝したよって大騒ぎ。
夜のニュースでイチローが「人生最高の日です」って言ってたな。
あんただけの最高の日じゃないのに。
画面の向こうの人に、私は腹を立てていた。
そんなふうに怒ったりしたんだから
やっぱり私にとって幸せ日だったんだろう。
結婚までの経緯はともかく、
誰もに祝福される1日は確かに格別の味わいだった。
だからこそ、思い出すたび心臓が抉られるような気持ちになる。
「お前のお姫様ごっこにみんな付きあわせたかったんだね」
タカキは何度も言った。
結婚なんてしなきゃよかった、ケンカして、私がそう喚くたびに。
「でもみんなの前で誓ったんだよ。もう2人だけの問題じゃないんだよ」
最後は呆れたようにそう言い捨てた。
そうだね。
私の結婚式はそれなりに素晴らしい1日だったけれど、
私だけの結婚式でしかなかった。
そして、それが当たり前だと思っていた。
「健やかなる時も病める時も愛することを誓いますか?」
的な質問に、予定調和に乗ったまま
「はい。誓います」
と答えればいいと、軽く考えていた私だったけれど、
実際、想像以上の躊躇をしたのは私のギリギリの良心?
いくら真似事のようだと言っても、一応神様がいるという設定と
数十人の親戚、知人の前で嘘をつくこと。
あの時私は数秒だけ迷った。
でも、結果的には引っかかる程度の反応のみで、
すんなりいけしゃあしゃあと出まかせを吐いた。
髪につけた花がずれてしまわないかとか、
祭壇の下からシャッターを切り続けるカメラマンを見ては、
自分の顔がちゃんと映っているかとか、
そんなことにだけ、私の心は集中していた。
披露宴では、ヒロちゃんのミニライブをやった。
ヒロちゃんは弟の彼女で、歌手を目指している
持ち歌を2曲と、私のリクエストで「秋桜」
子供の頃から、自分の結婚式では誰かにこの歌を歌って欲しいと憧れていた。
煌く様な一日だった。
あの一日の幸せさで、私も人並みに幸せになれるのだと、
すっかり勘違いをしてしまった。
皆が憧れるような素敵な奥さんになって、
仕事もバリバリこなしながら、子供も作って、
幸せな家庭、幸せな未来。
そんなものが私の射程距離にあると、まるっきり信じ込んでしまった。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
3月21日は、私とタカキの2回目の結婚記念日だった。
去年は披露宴をしたレストランへ、2人で食事に行った。
1周年のディナーご招待がついてたからなんだけど。
あの頃はそんなに悪くもなかった。
病気がわかって、色々不安になったり心細くなったり、
そんな中で私が頼りにするのはタカキしかいなかった。
人並みの家庭というものが、私にも作れるはずと、
まだ期待は捨ててはいなかった。
期待だけしたって何も叶わないのに。
実行が伴わず、いつか自然に全てが当たり前の流れになると、
そう信じ込んでしまうのがありがちな弱さ。
今年はもちろん、その日に特別な意味はなかった。
最近は、10時より前に家へ帰ることなんてほとんどない。
当たり障りの無い数言の会話の中で、
記念日の名前が挙がることはなかったし。
タカキは覚えてすらいないんじゃないかな。
男の人なんてそんなものだというし。
ともかく、覚えていないのをいいことに、
私はいつものように遊び歩いていた。
何度も誘われては断っていた藤川君とご飯を食べて、
酔っ払い半分で神田あたり上機嫌で闊歩していた。
隙だらけだったから、どさくさに紛れてキスされた。
「今日は帰らなくていいじゃん」
また、リベンジ。
この間もさんざんゴネたくせに。
面倒臭いなぁと思う。
こういう時、本当に面倒臭い。
キスなんて誰とだってできる。
断る方が面倒臭い。
朝まで一緒にいるのは断るより面倒臭い。
だけど、私は断るのがとっても苦手で、
だからここまで追い詰められると面倒臭くてどうしようもない。
結局いつのまにか、断るほうが面倒臭いような気もしてきて、
まぁ別に減るもんじゃないし、なんて手垢にまみれた言い回し、
頭で反芻しては開き直ってみる。
そんなことを繰り返していれば、
立派に安易で軽い女が完成する。
安易で軽い女って、永遠の固定キャラクターだよね。
必ずどこの世界にも存在する。
求められて存在するのか、
そうとしか成れずに存在するのか、
もしくは何かの成れの果て。
減るもんじゃないし
って、自分に言い訳して。
でもね、減るもんなんだよ。
最近になってやっと気がついたんだ。
確実に減るもんなんだよ。
言葉に出来ない何かがちゃんと減っている。
そしてそれは二度と戻ってこない。
一度安易に体を許すたびに、
心のどこからから何かが削られていく。
まぁ、こんな複雑なことを、ちまちまと考えたわけでもない。
そんなに遊び慣れてるわけでもなさそうな藤川君の攻撃は
巧みに逃げ道を作らせず、ってほどでなく、
「また今度、また今度」
呪文を唱えるように繰り返し、曖昧なキスで手を振って逃げた。
なんだか疲れちゃったな。
なんだかもうみんなどうでもよくなってきた。
去年の夏から今まで、
一生懸命探してきたものはなんだったんだろう。
私は何が欲しいんだろう。
きっと欲しいのは諦め。
大袈裟な言い方になるけれど、
私は余生を考えなくてはいけない。
残りの人生どう生きていくか。
私が選んできた道に間違いが無いこと、
これ以上の選択はないこと、やり直せないこと、
それを知って、“これでいいんだ”と歩いていく力。
格好いいような言葉を並べてみても、簡単にまとめてしまえば
私は諦めたい。
あの夏が終わったら、私は全てを諦めようと決めた。
今でも目を閉じれば浮かぶ、
大切で愛しかった時間の数々。
それらを持って、もう迷わないで、
私が選んできた道を静かに進んでいこうと、
そう決めて始まった夏休み。
結局それすらも途中で投げ出して、
自業自得とはいえ、私は着地点を見失った。
もう降りたいよ。
こんな不毛な毎日になんの意味もない。
私は帰らなくちゃいけない。
タカキのところへ帰らなくちゃいけない。
幸せかどうかはわからないけれど、
どうせ私に幸せなんて感情は理解できないし。
諦めきれない私の感情が、常に私を苦しめる。
2年前、私の結婚式。
ヒロちゃんが、歌ってくれた、「秋桜」
「明日嫁ぐ私に 苦労はしても
笑い話に時が変えるよ 心配いらないと笑った」
なにかにつけて、あのフレーズが頭を過る。
そうなのかもね。
今こんなに足掻いても、暴れても、
時が経てばくだらない悩みだったと思うのかもしれない。
中学生の頃、死ぬ程悩んで、泣いて、騒いだ恋の数々
振り返れば、そんなことに時間を使ってたなんて
憤りたくなるくらいの些細なこと。
10年後も、20年後も、私はタカキと一緒にいて、
疑う隙もないくらい、ずっと幸せでした。
これが私の人生なんです。
と、静かに思えるんだ。きっとそうに違いない。
だから諦めたい。
全部諦めて受け入れたい。
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