この物語は、私が書いたメモ集を、夫が監修し、校正したものであります。



『ラブレター ~ボスからミーへ~

僕はボス。君はミー。
初めて出会った日のことを、君は覚えているだろうか。

あの頃、君は僕より少しだけお姉さんだった。人間でいえば五歳。
僕はまだまだ子どもで、人間でいえば一歳。
五歳と一歳――ちょうど、お姉さんと弟みたいな距離感だ。

君の存在は、姿を見る前から“匂い”で知っていた。
ある日、君は大きなあくびをして、空をぼんやり見上げていた。
お互いに、鼻をツンとつき合わせることすらできない――そんな、少しだけ遠い関係だった。

それでも、僕はずっと、ずっと君が好きだった。
心の底から、ふつふつと湧きあがる感情。

初めは嫉妬だった。
「なんでミーばっかりかわいがられるんだよ」
そう思っていた。

でも、少しずつ変わっていった。
「なんか、いいやつそうだな」
「のんびりしてんなぁ」
「ネズミとか、捕れないんじゃね?」
そんなふうに思いながら――気づけば、それは恋心に変わっていた。

…うん。俺の相手に悪くないかも。
(いや、何様なんだ俺は…)

気になる。気になる。
そうして時は流れ、僕が十歳になった頃、凡須として仮の人間になった。
そして五年後、月明かりの下で君と再び出会った。

初めて顔を合わせたその瞬間、胸の奥で「ドキッ」と音がした。
犬だった頃は、話すこともできなかった。
だからこそ、やっと言葉を交わせる今が、どれほど嬉しいか。

「ミーでよかった」
やさしくて、おっとりしていて――そんな君が、僕の相手でよかった。

君は言ってくれた。
「私も、ボスでよかった」
「ボスって、やさしいよね」

その言葉に、僕の頭の中で――
ポッ…ポッ…ボーッ(燃える音)

これからも、よろしく。
ずっと、君と――。


『アンサーレター ~ミーからボスへ~

私はミー。君はボス。
あの頃の私からすれば、君はただの犬。
それも、やたらと私のことばかり見てくる、ちょっと変わった犬だった。

じっとこちらを見つめるその瞳は、不思議とあたたかい。
でも、私は猫。君は犬。
その境界線は、どうしても越えられないものだと思っていた。

「もし同じ猫に生まれていたら、私たち…」
そう思うたび、胸の奥でふっと風が吹くような寂しさを感じた。
運命の相手なんて、きっと私にはいない――そう諦めていたのかもしれない。

それでも、あの犬はそばにいた。
やさしそうな顔をして、あたたかい目で、まるで私を包むように見てくれる。
かわいいやつ…ふふふ、気づけばそう思っていた。

そして、あの日。
月明かりの下で、君は私を抱きしめた。
「犬と猫でも、仮人間の姿なら…愛し合えるんだよ」
その言葉は、夜の静けさの中で溶けていき、私の心にゆっくり染みこんだ。

…気づいたら、私は君の胸の中で、ただ目を閉じていた。