スキーに行った中で最も印象に残ってる瞬間
おもむろに判明した

真っ先に思い浮かんだからだ

それは
極端に緊張したイベントではなく
突然課題をクリア出来た歓喜の瞬間でもなく
標高差30000mを滑り降りた日でもなく
雨に打たれながら黙々と滑った時でもなく
思い出す度怖くなる怪我の瞬間でもなく
リアルオープンからラストまで滑った日でもなく
渾身の伝授に成功した暁でもなく
リアルトップスキーヤーを追った残像でもなく
4ヶ所はしごした日でもなく
今は無きゲレンデの想い出でもなく
雨予報にも関わらず晴れ男パワー炸裂したと思い込んだ午後でもなく
オールナイトで徹夜した朝でもなく
UFO見たかもと胸騒ぎの新雪でもなく
実力不相応を実感した標高差の画角でもなく
極上ゲレンデのダイヤモンドダストでもなく
樹氷原の香りでもなく
おnewの板をいきなりガガガの悲しい音でもなく
寒すぎて縮こまった記憶でもなかった

勿論それら全てがきらびやかな記憶であり財産でもある
勿論それら全てに感謝しているが

真っ先に思い浮かんだのは
特別な日ではなかった
特徴ある日でもなかった

ホームゲレンデ度数高いスキー場に
いつものように行き、いつものように滑り、いつものように帰った
空いていたこともいつもの通り
シングルスキーで周囲に知人は居ない
それも珍しいことではなかった

父と娘と思われる仲良い2人組が楽しそうに滑っていた
父さんはナイスミドル、娘さんは小学生に見えたが中学生かも知れなかった
(勝手に仮定して想像を進めるが)
父さんはレジャースキーヤーとしては充分に上手かった
多くの場合、父さんの技量と熱量が圧倒的に大きかったりする
しかし、その父娘は違っていた
『娘さんは明らかに父さんより上手かった』
最初に父さんが大いなる熱量を以て、スキー場に連れて来たのかも知れない
娘さんのセンスの良さに鼻高々
娘さんをクラブに入れたのかも知れない
娘さんはプロのコーチの指導を受け、父さんよりも上手くなった
リフトの上でそんなことを想像した

娘さんに、主体的な熱意を感じれたこと
そして、その熱意が父さんよりも大きそうに感じれたこと
私は密かに感銘を受けていた

父さんが先に滑り、娘さんが後から滑る
それを何度か繰り返した後、やや難易度増したコースで
今度は娘さんが先に滑って、父さんを待っていた
父さんは深呼吸をして滑り降りた
十二分に良い滑りだった
娘さんが放った一言が脳裏に刻まれている
『ダメじゃん』
言われた父さんは満面の笑みで嬉しそうだった
古今東西、老若男女
入魂のプレイにバッサリとダメ出しされることが誇らしいなんて
我が子の進化以外にあるだろうか

「ローテーションが云々」
父さんは嬉しそうに言い訳してるように見えた
「ローテーションってそのタイミングじゃないよ、切り替えを大切に」
娘さんの核心を突いたアドバイスに目眩を感じた

お陰さまで
自分自身のローテーションにまつわる部分も進化した気がした
「ダメじゃないじゃん」
「良いじゃん」
心の中で反芻した
いやいや、ため口はあかん
(といっても発言しない心の声だけど)
「微笑ましいシーンをありがとうございました」

切ない程に綺麗な夕陽が、瞬間朝陽に見えた