このような正月は初めて
被害が少しでも小さいことを祈るばかりだ
今更ながら謹賀新年


新しい歴史だ、駆け抜けよう
10時間走って後ろと僅か20秒差
総合3位という初めての快挙は目の前、だが掌からこぼれ落ちるかも知れない
殆どの監督はこう叫ぶに違いない
「後ろから迫ってるぞ、頑張れ」
監督車からの言葉としては、異質な程にハイカラな響きを聞いた気がする
その言葉の主の過去を思い出すと涙腺が緩む

天才肌だが苦労人
歴史に残るブレーキと歴史に残る快走
紛れもない日本のトップランナーだったが、オリンピック代表には成れなかった
斬新なトレーニングを試みる柔軟な頭脳と勇気
箱根のかつてのスターとして監督就任したとは言え、有力な学生はなかなか来てくれない実績のない大学
シードにあとほんの僅かが何年も続く


今年の箱根駅伝を見ると
30年前の大会のことを記さずにはいられない

櫛部静二の箱根駅伝はブレーキと快走が語られる
しかし私は、そのいずれでもない4年時の1994年の印象が強い
山梨学院大学と早稲田大学の2強時代
早稲田の復路のエースとして9区を走った

櫛部のアップを中継所で観戦し驚愕した記憶が甦る
一般人にとって全力疾走とも思えるスピードで軽やかにダッシュを繰り返す
トップランナーとはかくも凄いのか、と感心しきり
「レース前に疲れるんちゃう?」
「バネ貯めてなくていいのか?」
と思ったものだ

山梨学院が首位で復路エースの黒木純にタスキが渡る
2分程遅れて2位早稲田の櫛部が追走する
前半櫛部は怒涛の追い上げで黒木の背後に迫る
しかし、後半は黒木のペースに付いて行けず逆に離された
それでも、踏ん張り区間上位を保った
ツッコミ(序盤)と粘り(終盤)
ハイペースで序盤から飛ばす、が極端にペースが落ちることはない
駅伝におけるキーワードだと勝手に思っている
この櫛部の走りから意識するようになった
前半の櫛部と後半の黒木ならインターナショナルだ、と短絡的に思ったものだ

この年の両校にはスーパー1年生が居た
山梨学院の中村祐二と、現在解説でお馴染みの早稲田の渡辺康幸
そして栄光のゴールテープを切ったのは、後に長きに渡りマラソン日本代表として活躍する尾方剛
中村と渡辺は、その潜在能力程には国際的に活躍出来なかった(と私は勝手に思っている)
黒木も当時の超ロングスパートの鮮烈さ程には後に活躍は出来ていない
早稲田の往路エースの花田勝彦も箱根のオーラを思うと、私見だが更に華々しい活躍があっても良かったと感じる
尾形は、実は箱根では大エースだった訳ではなく実業団で飛躍的に進化した
マラソン日本代表で箱根経験者は尾形のみ、の時代も意外と長かったと記憶している
箱根は、実は世界への礎ではないのでは?との考えも巷ではあった
森下広一や高岡寿成に代表される箱根を経ない日本最速にして最強の社会人
ツッコミと粘り」が凄かったが
特に「粘り」の質が箱根の大学生とは全く異次元、ペースアップ出来たりロングスパート出来たりした
櫛部の粘りは極力離されない守りの粘りだったが、彼らの粘りは引き離す攻めの粘り
正にあの時の「前半の櫛部と後半の黒木」
森下は間違いなく世界最強の瞬間があったと思うし、高岡はかつての中山竹通のように前半から飛ばすことも出来る上にラストスパートも鮮やかだった

今年の青山学院3区の太田蒼生はそれを思い
出させてくれた
社会人のロードの走り
箱根駅伝新時代、と私は勝手に感じている
新たな時代を駆け抜けた

世界への礎は箱根とは限らない
しかし優れた指導者により、箱根が世界への礎の1つであることも間違いない

新しい歴史だ、駆け抜けよう
櫛部静二が指導する城西大学のアンカーに向けたエールのみならず
箱根駅伝新時代のランナーに向けたエールでもある気がした
かつて覇権を争いマラソン日本代表を輩出したが、今年最下位に沈んだ山梨学院へのエールでもある気がする
そして、櫛部静二自身へのエールでもあるように感じた