西日が傾く街には、まだまだ活気に満ちていた。夕食の買い出しをする人、仕事帰りの人、露店商とかけあいをする客、様々だ。
――やっぱり、故郷、なのかな。
そんなことを思い、懐かしむ。
先刻の、セイバーの言葉が胸に引っかかる中で、昔と変わらない街並みは安心感を与えてくれる。だからこそ、トーシアンが好きだった。遺跡が好き、というのも、この風情のある街並みや、湖に面している環境の影響があるのかもしれない。
『全てを知れば、後悔するのはお前だというのに…』
不意に、思い出した台詞に、リークは思わず勢い良く首を振った。今は、そんなことを気にしている場合ではない。
――そうだ、図書館に行かないとな。
無理矢理意識を変え、リークは活気ある商業区を抜けた。
図書館があるのは、学業区だ。華やかな商業区に比べて人は少ないが、機能は充実しているので、学業水準は割と高い。
その中でも、一際目立つ煉瓦造りの建物が図書館だった。ここも古くからある建物らしく、屋根に近い中央部にはめられたステンドグラスや、壁にツタが絡みついている、そんな雰囲気が、リークは好きだった。
少し重い木製の扉を開くと、まずはカウンターが目につき、次いで、かなりの数の蔵書が見えた。二階まで、本棚はぎっしりある。
「あの、歴史書はどこにありますか?」
「二階の奥になります。ご案内しますか?」
司書の女性が、笑顔で申し出てくれるが、リークは丁重に断って、カウンター横の階段を上った。
――うわ、専門書ばっかりだな。
蔵書を見渡してみれば、おそらく、一般の利用者は読まなさそうな、学術書的な文献が二階の蔵書を占めている。そして、そのほとんどが、トーシアンの歴史に関してのもの。確かに、司書の女性が案内する、と申し出てくれるはずだ。種類が多すぎる。
――まぁ、この街全体が遺産でもあるし、ガレンシア湖の遺跡も大規模だからな。
胸中で独りごちて、リークは、ようやく、目当ての棚に辿り着いた。
昔、父と来た時に、ちらっと読んだことのある本。その時は、文字があまり読めなくて、絵ばかりを見ていたせいか、逆に、本の装丁は覚えている。古びていて、珍しい染料を使っていた。
――あった、これだ。『ガレンシア―失われた都市―』
確認するために最初のページを繰ると、そこには、湖面に浮かぶ屋根らしきものと、二本の尖塔の先が見えている絵があった。そして、何気なく窓を見てみれば、夕焼けに照らされて、似た光景がガレンシア湖に浮かんでいる。
――あれが、ガレンシア湖の遺跡なんだ。
改めて、そのことを実感する。
『トーシアンの基盤を作ったのは、デイアイクという建築家なんだ。この街は、彼の作品と言っても良い。だが、ある日、大雨で水路が決壊して、トーシアンの三分の一が湖となって沈んだんだ。だから、あの湖を“遺された(ガレンシア)”湖と呼ぶんだよ』
リークは、そう説明した父の言葉を思い出しながら、窓の外の遺跡に背を向けた。
今は、この遺跡を調べたい。トレジャーハンターの最初の仕事として、故郷の街にある、この遺跡を。
『いらない迷いは捨てるんだな』
そこまで考えた時、不意に、セイバーの言葉が浮かぶ。そんなことが出来れば、苦労はしない。自分でも優柔不断だと思いながら、それでも止められないのが腹立たしいが。
――じゃなくて! 今は、そんな場合じゃないんだから!
自分に言い聞かせて、首を軽く振ってから、リークは、本をカウンターに持っていった。
「すみません、この本をお借りしたいんですが」
「免許証はお持ちですか?」
「え…?」
逆に問われ、リークは思わず聞き返してしまう。そういえば、以前、本を借りる時に父が職業免許を提示していた気がする。
「あ、今、免許は申請中なんです」
「でしたら、お貸しするわけには…」
「じゃあ、これで良いでしょ?」
形式通りの答えをしようとした司書に、唐突に女性の声が割って入り、免許を差し出す。そこに刻まれた名前を見た時、リークは驚いて顔を上げた。