「ガルディアおばさん!」
「ガルディアお姉様、でしょ?」
しっかりと訂正を加えながら、いたずらっぽく笑ってみせると、彼女は貸出証書に記入してくれる。とにかく免許証さえあれば貸し出しできるらしく、司書も、ガルディアが借りる、という形で承諾してくれた。
そのまま、二人で図書館を出、お礼を言う間もなく、リークは声を上げた。
「びっくりしましたよ。いつもいきなり現れるんだから」
「失礼ね。別に、知り合いに声をかけても良いでしょ? あたしにとっちゃ、あんたもセリカも、自分の子供みたいなもんなんだし」
言って、ガルディアは人当たりの良い笑顔を見せた。
「ところで、おばさんは…」
「お、ね、え、さ、ん」
「……。ガルディアさんは、どうしてこの街に?」
何となく、そこを訂正するのが癪で、言い変えてみれば、ガルディアはわしゃわしゃとリークの頭を撫でた。
「こら、子供が変な気を遣いなさんな。それとも、この頭じゃ、あたしがこの街に入る理由もわからんか?」
「いた…っ、痛いですってば!」
力を込められて、思わず声を上げるが、気を遣ってくれているのはガルディアも一緒だ。こうして明るく振る舞って、お互い、暗くならないようにしてくれている。本当に、セリカの母親、カトレシアとは姉妹ながらも、静と動、という感じだ。
「とは言っても、あれから一カ月だからね。葬儀も関連行事も終わっちゃってるから、ほんと、あんたが心配することは何もないのよ。カトレシア達の冥福を祈ってやって、トーシアンにいる間だけでも、あの子の側にいてやって」
「ガルディアさん…」
言いながら、ガルディアは気の良い笑顔を見せる。本当に、昔から、彼女の元気というか、前向きな考えには、いつも励まされる。
そんな心境をくみ取ってか、ガルディアは強く背中を押した。
「らしくないじゃないの! あたしが知ってるリークは、そんな顔しなかったわよ。全部のことに一生懸命だけど、ちゃんと、肩の力を抜く方法も知ってる。自分の気持ちに嘘はつけない子だもの」
「そう、なんですか…?」
思わず聞き返してしまえば、彼女は、声を上げて笑ってみせた。
「あたしに聞かないでよ。でもね、リーク、人は変わるもんよ。環境とか、接してきたものとか、色んなことでさ。それでも、あんたの大事な想いだけは曲げちゃダメ。それが、絶対支えになるんだから」
「大事な、想い…」
自分で口に出してみるが、今はそれがはっきりしない。いや、気付きたくないだけかもしれない。
セリカの側にいることが心地良すぎて、自分の夢をないがしろにしてしまうのではないか。でも、だからと言って、自分の夢を取れば、今度はいつトーシアンに戻ってこられるかわからない。その間に、何かあったら…。
だから、結論を出せなかった。答えを出すということは、どのみち、自分の我が儘を貫くことになるのだから。
「何かあったら、あたしの会社に来なさい。お姉さんがいつでも相談に乗ってあげるわよ」
言うと、彼女はウインク一つ残して、歩いて行ってしまう。本当は忙しいのに、リークの姿を見かけて、わざわざ声をかけてくれたのだろうか。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「さぁ、早く帰らないとな。セリカが待ってるだろうし」
本を持って軽く伸びをしながら、リークは再び商業地区を目指して歩き出した。