世界に、たった二人だけの家族。
世界に、たった二人だけの双子。
この絆は絶対で、決して離れることはないと、自信を持って言えた。
けど、お互いに、大事に思う人が出来た時。
俺は、笑って祝福できるんだろうか。
王宮の中を、一人で歩く。
同じ宮廷魔道士で双子だからって、いつも一緒とは限らない。それは、成長していくにつれて、だんだんわかってきたことだ。
ダメだよなぁ、俺。いい加減兄離れしねぇと。っていうか、これじゃ俺がブラコンみたい…。
そこまで考えて、俺は、とっさに柱の影に身を隠した。前から歩いてくるのはライトだ。俺のたった一人の家族で、魔導士として尊敬すべき、双子の兄。
けど、
「嫌ですわ、ライト様ったら。そのようなご冗談をおっしゃるなんて」
「冗談なんかじゃないですよ。俺は真剣ですって」
楽しそうに笑う、声。
ずきん、と、少しだけ胸の奥が痛んだ。
「リン、何やってるんだ? こんなとこで」
不意に声をかけられて、俺は大袈裟なくらい驚いてた。
そりゃあ、柱の影に隠れたくらいじゃ、簡単に見つかっちまうよな。
「大声出すなって。一応、これでも逃走中の身なんだよ」
「逃走って、お前、また何かやらかしたのか?」
ライトに聞かれて、俺は思わず苦笑する。
何にも、やらかしてなんかいない。強いて言うなら、この場に居合わせちまったことだ。
「リン様も大変ですわね」
そう言って、ライトの隣に立ってた女が笑う。多分、宮廷の女官だろうけど、柔らかい言葉遣いと、綺麗な顔立ちが、何か、すげぇライトとよく似合ってるって感じがした。
「あ、あのさ、ライト…」
声をかけてみたものの、何を言っていいのかわからない。俺が名指ししたからか、ライトは俺の言葉を待ってくれてるし。
とりあえず、何か言わないと。
そう思っていたら、
「リン、見つけたぞ! お前、また訓練サボったな!」
「げっ!」
真正面から凄い勢いで走ってくる部隊長に、俺は思わず声を上げた。さっきのは隠れてた言い訳だったってのに、マジにしなくてもいいってば!
「そういうわけだから、じゃあな、ライト!」
「あ、おい、リン!」
けど、天の助けであることもまた事実で。
俺は、追い掛けてくる部隊長から逃げるのにかこつけて、その場からも逃げ出した。
今日は、俺の方が早く任務が片付いて、家に帰ってきていた。
というか、最近、ライトは階級が上がって忙しいのか、今までだったら半々の確率で俺かライトが早い、って感じだったのが、いつのまにか、九対一で、圧倒的に、俺の方が、帰りが早くなっていた。
ライトが凄い魔道士だっていうのは、俺の誇りだ。そりゃ、ちょっとは羨ましいとかも、思わないでもないけど、純粋に、凄いって思う。
けど、もし、そんなライトと、別々の道を歩むことになったら……。
「あーもう、何暗くなってんだ、俺は!!」
「いや、暗いだろ、もう夜だし」
不意に声が聞こえて、部屋の明かりがつけられる。そしたら、そこには、半分呆れ顔のライトが立っていた。
「お、おかえり…」
「ただいま。つーか、お前、今日はずっと何やってんだ?」
「何って…」
言いかけて、思わず、ライトと別れた後、部隊長にみっちりしごかれたことを思い出して、一気に脱力した。
我ながら、バカだと思う。同い年、で、しかも双子の兄弟だってのに、ライトの方がしっかりしてるから、ちょっと、父親みたいに頼っちまうとこもあって。
十五で宮廷魔道士って言ったら、十分すぎるくらい働いてるし、お互い、自立してたっておかしくないくらいなんだ。
けど、俺達は、当たり前のように一緒にこの家に暮らしてる。両親の思い出すら残されていないこの家に。
「ライトはさ、あの人と付き合ってんの?」
まどろっこしく悩むのが嫌で、単刀直入に聞いてみる。
そしたら、ライトは一瞬、驚いたような顔をして、けど、すぐに笑い出した。
「何だよ、藪から棒に」
「い、いいだろ、別にっ!」
「ふーん、そんなに兄貴が取られるのが嫌か?」
「はぁ? んなわけねぇだろ!!」
ライトは、全部わかってる。
それに、気付くと、無性に恥ずかしくなって、俺はそのまま机の上に突っ伏した。
もう、何かどうでも良くなってきたぞ。それより、だんだん、明日も続くと宣言された部隊長のしごきの方が憂鬱になってきた。
そのまま、俺がうつぶせたままでいると、不意に、優しい手が頭に置かれる。
「俺達は、双子でも、別々の人間だ。誰かをすきになって、まだまだ未来の話かもしれねぇけど、結婚するかもしれない」
「……」
ライトに言われて、改めて実感する。
別々の人間。
確かに、そうだ。双子だからって、何もかも一緒じゃなきゃいけないわけじゃない。そんなこと、学生時代に、とっくに気付いていたはずなのに。
「けどさ、リン。俺達、いくら宮廷魔道士になっても、肝心の中身は子供のまんまだ。まぁ、だからって、恋愛に疎いのとは、また違う話だろうけど」
そこで一旦言葉を切って、ライトは、不意に俺の肩を掴んで体を起こす。それから、手を握って、呪文を唱えた。
「ミーサーク・アーイラ」
「あ…」
お互い、固く握った拳から、光が溢れる。
そして、ライトの言葉の意味にも、俺は気付いていた。
「例え、離れるようなことになったとしても、俺達は家族だ。ちゃんと、繋がってる絆が、ここにある、だろ?」
「あぁ、そうだな」
ライトに言われて、さっきの呪文を噛み締める。
家族の絆。あれは、古代語で、そういう意味。
「ちなみに、あの時話してた女の人は、サイス王子に憧れてて、幼馴染の俺に話が聞きたかったんだと。お前にも話を聞きたがってたけど、部隊長に追っかけられてたからな」
「う……」
痛いところをつかれて言葉を詰まらせれば、ライトは余裕たっぷりに笑いやがる。
ちくしょー。ちょっと俺より早く生まれたからって、兄貴面して、余裕ぶりやがって。
そう思うと、ふつふつと怒りがわいてきて、さっきまでの気持ちはどっかに吹き飛んでた。
もしかして、ライトはそこまで読んで言ってるのかも。もしそうだったとしたら、ほんとにすげぇよ、俺の兄貴は。
「さぁ、飯にするか。待たせて悪かったな」
「別に良いって。家族だろ、俺達」
笑って、さっきライトに言われたみたいに返せば、ライトも笑ってくれるから。
今は、ごちゃごちゃ考えるより、これで十分。
心から、そう思った。
世界に、ただ二人だけの家族。
世界に、ただ二人だけの双子。
その存在は大きくて、離れてしまうことが怖くなる時もあるけど。
何年経ったって、お互いの歩む道が違ったって、きっと、これだけは変わらない。
俺達が、家族であるという、かけがえのない絆で結ばれていることは。