夜闇が、エネアドの街を包み込む。日が沈んでもう何時間過ぎたことか。
リンが寝たのを確認して、家を出たために、街はもちろんながら、向かった先も夜の静寂の中にあった。
「よぉ、待ってたぜ、ライト」
ただ一人、自分を呼びつけた人物の部屋以外は。
「悪いな、サイス。こんな時間になっちまった」
「いや、構わねェよ。リンも、お前のこととなると聡いからな」
言われ、思わず、今朝のやり取りを思い出し、苦笑した。
普段は猪突猛進で単純なところのあるリンだが、不意に過敏な反応を見せる。
――あの一件が、あいつを臆病にさせちまったのかもな。
今でも忘れられない。ライトが“復活”した時の、リンの表情。そして、今朝の心配げな…。
「ライト?」
呼びかけられ、彼は我に還る。不思議そうに見つめる親友に、首を振ってみせてから、問いかけた。
「で、話って何だ? しかも、俺にだけ、って」
「今回は、俺個人じゃなく、王帝として、密命を受けてもらいたい。その為には、お前の冷静かつ的確な判断が必要なんだよ。宮廷魔導師、ライト=エヴァーラスト」
「それは、御使命いただき、誠に光栄です、サイス王帝陛下」
言って、恭しく礼をしてみれば、サイスは不敵な笑みを見せる。
「さすがは俺の右腕だ」
「まぁな」
サイスの言葉に、同じような表情で返すライト。だが、サイスの方は、すぐに真剣な表情になった。
「早速だが、お前、サルド家を知っているか?」
「あぁ。王家の血筋の貴族だろ? 確か、三日前、一人娘が亡くなったっていう」
言いながら、ライトは、昨晩のミラージュの言葉を思い出す。そういえば、サルド家のお嬢様の名前はレヴィエンス。その愛称が、レヴィーなのだろう。
そんなことをうすぼんやりと考えていると、
「その、一人娘が、いなくなった」
「ッ…!?」
聞かされ、思わず、ライトは息を呑んだ。そして、続く、サイスの言葉に。
「正確には、遺体がなくなった、だがな」
淡々と告げられ、ライトは自分のことを重ねる。
自分が、神子と呼ばれるようになった、あの日のことを。
「まさか、とは思うが“再臨”が関係してるんじゃねェだろうな?」
思わず、あり得ないはずのことを口にして、ライトはすぐに、違う、と否定した。それは、サイスも理解しているようだ。
「俺が危惧しているのは“狂気”の方だ。けど、リンに知らせなかったのは…」
「リンに、あの時のことを思い出させたくなかったから、と、リンの“再臨”が狙われている、ってとこか?」
聞いてみれば、サイスはすぐに頷く。確かに、この話、リンにはまだ酷だろう。
「わかった。俺が、出来る限り調べておく」
そう言って、踵を返したライトだったが、
「また、一人で抱え込むなよ?」
後ろからかけられた、優しい声。それは、王帝としてではなく、一人の友としてのものだった。
「心配するな。俺を、誰だと思ってる?」
「傲慢」
「知ってるっつーの」
そう言って、左手を高く上げてみせると、ライトは王帝の私室を後にした。