星天に瞬いて 3 | 気まぐれ図書館

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 大国、イシスの首都、エネアド

 この世界唯一の国家にして、その中心部である首都は、しかし、夜ともなると、静かだ。


――だが、人がいないのは、かえってありがたい、か。


 思わず胸中で独りごち、少年、ライト=エヴァーラストは、ゆっくりと生まれ故郷でもある街を見回した。


 奇跡の復活を果たした神子(みこ)、それが、今のライトのもう一つの肩書となっていた。

 ただでさえ目立つ金髪に、加えて容姿端麗。そして、魔道士の憧れである宮廷魔道士のトップクラスとなると、否応なく人目を集めてしまう。


――神子、か…。


 もう一度、自分の立場を再認識するように、独白する。

 人は、それを、イシスの導きだと言う。神に選ばれた存在だと。


――いや、それだったら、むしろ…。


 そこまで考えて、ライトの思考は中断された。どこからともなく、歌が聞こえてくる。それは、まるで、風の抜ける音のような、泣き声のような、どこか、悲しい声。


「あれは…」


 思わず声に出してしまいながら、ライトは、公園のベンチに1人座る少女を見かけた。


 決して、大きな声ではない。だが、良く通るその声は、随分離れた位置にいるライトにまで届いた。


「あ…」


 やがて、その声がやんだ。歌い終わったのか、中断したのかも定かではない。だが、少女は、いつの間にか近くに来ていたライトの存在に気付き、声を上げる。


「ライト、様…?」


 そう言った、彼女の声は、先程のものとは打って変わって、随分と明るいものになっていた。瞳を輝かせ、真っ直ぐこちらを見つめてくる。


「そうだけど、様、は、いらないな」


 そう言って苦笑するライトだが、少女は相変わらずの表情で語る。


「でも、神子様ですし、それでなおかつ、今も宮廷魔導士として王帝陛下にお仕えしているのは、本当に凄いと思います!」

「あ、ありがとう…」


 勢いに気圧されて、思わずお礼を口にしてしまうライト。だが、そこで、ようやく我に還ったのか、少女はいきなり顔を真っ赤にしてその場に座り込んだ。


「す、すみません、私…」


 そして、そのまま黙り込んでしまった少女の表情を見るために、ライトもゆっくりと彼女の隣に座る。すると、彼女は、俯いたまま、ぽつり、ぽつりと話し始めた。


「あの、私、ミラージュ、って言います。私も昔、宮廷魔道士を目指して魔術学校に通っていたことがあって。その時、ライト様は既に宮廷魔道士でしたから、私達の憧れだったんです」

「私達?」

「はい、友達と、私の。でも、その彼女、レヴィーも、三日前、病気で…」

「……」


 その先の言葉は、促さずとも理解できた。彼女の表情からも、その友人のことを大切に思っていたのだろう。


――さっきの曲は、彼女へのレクイエムか。


 そんなことを考えながら、ライトは、言葉を選びつつ、ミラージュを見た。


「君は? こんな時間に、女の子1人、出歩くのは危ないよ?」

「あ、大丈夫です、私なら。それに、今しか、時間がないから…」

「え…?」


 言葉の後半、徐々に声が小さくなっていく。思わず聞き返してしまえば、彼女は、家が厳しくて、と笑ってみせた。また、どこか悲しげな笑顔で。


 だが、ライトが疑問を感じる間もなく、ミラージュはおもむろに立ち上がると、今度は、可愛らしい笑顔を見せて、姿勢をかがめ、ライトに向き直った。


「ライト様、また、こうして夜に公園にいたら、会って下さいますか?」

「そうだな、確約はできないけど、俺も、夜で歩くことが多いから」

「良かった!」


 そう言って、ミラージュは本当に嬉しそうに笑ってみせる。そして、一礼をすると、笑顔で公園を去っていった。


 まるで、嵐が来たかのような出会いと別れ。その唐突さに思わず笑ってしまったライトだったが、すぐに真剣な表情を取り戻した。


「今しか時間がない、か…」


 どこか自嘲的に呟いて。

 思わず見つめた自分の手を握りしめ、ライトも公園を後にした。