ミスティックゴート 5 | 気まぐれ図書館

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 独白のように言うシェオルに、あの事件を知るレットは、真面目になって問う。



「また、あの”エル=アマルナ”の君の夢を見たのか?」

「あぁ…」

「そうか…」



 一言、それだけを返して、沈黙が流れる。だが、それを破ったのは、その場に不相応なザグの声だった。



「しっかし、お前も、よく“エル=アマルナ”の名前使えたよな~。エル=アマルナっていえば、この世界、アーデルの、絶世の美女って謳われた女神だぜ?」

「う、うっせェな! 名前聞き忘れたんだから、しょうがねェだろ!」

「で、その“エル=アマルナの君”か? よっぽど彼女が可愛く映ったのか、それとも、初恋か?」

「バ…ッ、ち、ちげェよ!!」



 必死になって弁解するシェオルだが、レットまで参戦して、二対一では分が悪すぎる。何より、ザグはともかく、レットに口で勝てる気がしない。

「と、とにかく、それだけ俺には忘れられないってことだよ! 俺のせいで、あの子に怪我させちまったんだ」



 思い出すまでもなく、時たま夢に見ることがある。



 自分の運動能力の高さを過信して、彼女を村の外の洞窟へ連れ出した。ただ、彼女に、綺麗に輝く、辺り一面の光青石(こうしょうせき)見せてやりたくて。

 なのに、得たものと言えば、一生消えることのない傷とトラウマ。そして、望みもしないガイア・リード。その代償として“エル=アマルナの君”に大火傷を負わせて。

「ガイア・リードは使わない。俺は、俺の手で強くなって、もう、二度とあんな過ちは繰り返さない」


 言って、シェオルは固く手を握る。もう、自分のせいで人が傷つくのは、たくさんだ。



 そんな彼の胸中を察してか、不意に、レットが、シェオルの手に自分の手を重ねた。



「俺達は、ちゃんと知ってる。運動能力のセーブの仕方をじっちゃんに習ってたことも、今は、必要以上にその力を使わないことも」

「レット…」



 呼びかければ、力強く頷いてくれる友人。その言葉に、シェオルは、ようやく笑うことができた。

 そんな二人の様子を見ていたザグだったが、彼としては、やはり、ガイア・リードが気になるらしい。



「お前の気持ちも、俺らは痛い程わかってるけどよ、いっそ、ガイア・リードを使いこなして、世界征服ぐらいしてやるって野望を抱いてみろよ? そのぐらいの力がありゃ“エル=アマルナの君”を助けるのも簡単なんじゃねェか?」

「世界征服…」

 冗談めかして言ったザグの言葉に、シェオルは、不意に真剣な表情で悩み始める。



 そのまま、しばらくの沈黙。



「シェ、シェオル?」

 さすがに心配になったのか、レットが声をかけるが、一人の世界に入ってしまっている彼には届かない。



 そのまま、レットとザグが見守る中、

「よしっ!」



 唐突に叫んだかと思えば、立ち上がるシェオル。そして、幼なじみ二人に向き直る。



「そうだよな! 世界征服できるくらいの力があれば、あの子の顔も治してやれるかもしれねェし! けど、俺はじっちゃんみたいな剣士になって、世界征服する!!」



 高らかに宣言し、シェオルは満足げな顔で、腰に差した剣を見る。祖父の力をも受け継いでいるようなその剣に、力をもらえそうな気がして。



 そんな彼を、レット達が若干冷めた目で見つめていることに、気付かないまま。

「お~い、戻ってこい、シェオル」

「ほんと、バカ一直線だな。世界征服できる力と、傷を治す力ってのは別物だってのに」

「お前がバカ言って茶化すからだろ?」

 完全に自分の世界に浸っているかわいそうな幼なじみを見ながら、レットとザグは半眼で呟く。もちろん、その声も、シェオルには届いていないのだが。



――そうだよ、助ける方法は絶対ある! それを探してやるんだ、あの子のために!



 柄をしっかり握れば、わずかにカシャリと剣が鳴る。その感触に、なぜだか確かな手応えを感じていると、



「おい、何か聞こえないか?」

 不意に、人差し指を口元に当てて、周囲をうかがうレット。それに呼応するように、シェオルとザグも、ふざけるのをやめる。

 だが、その原因はすぐに知れることとなる。



「おい、あれ!」

 高見台から身を乗り出すように村を見たザグが叫ぶ。わずかだが、村の入り口付近から黒い煙が上がっていた。とても、子供の火遊び、で、済まされる様子ではない。



「村に何かあったんだ! あの、黒いフードのやつ!」

「え、おい、シェオル!」

 ザグと同じように村を見ていたシェオルだが、友人では気付けない姿を認め、はしごも使わず、一気に飛び降りる。



「ザグ、警鐘頼む!」

「待て、シェオル!」



 走り出したシェオルを追いかけようとしたレットだが、彼の瞬発力には追いつけない。



「おい…」



 ひとしきり警鐘を鳴らして、見えなくなった幼なじみの背を見つめるザグ。おそらく、みなまで口にしなくても、同じ自警団同士、考えていることは一緒だろう。



「あぁ。もし、シェオルの言っていたことが本当だとしたら…」

「ッ、行くぞ!!」



 レットが断定する前に、ザグは慌てて走り出す。その姿を心配げに見つめながらも、レットもその後を追った。