独白のように言うシェオルに、あの事件を知るレットは、真面目になって問う。
「また、あの”エル=アマルナ”の君の夢を見たのか?」
「あぁ…」
「そうか…」
一言、それだけを返して、沈黙が流れる。だが、それを破ったのは、その場に不相応なザグの声だった。
「しっかし、お前も、よく“エル=アマルナ”の名前使えたよな~。エル=アマルナっていえば、この世界、アーデルの、絶世の美女って謳われた女神だぜ?」
「う、うっせェな! 名前聞き忘れたんだから、しょうがねェだろ!」
「で、その“エル=アマルナの君”か? よっぽど彼女が可愛く映ったのか、それとも、初恋か?」
「バ…ッ、ち、ちげェよ!!」
必死になって弁解するシェオルだが、レットまで参戦して、二対一では分が悪すぎる。何より、ザグはともかく、レットに口で勝てる気がしない。
「と、とにかく、それだけ俺には忘れられないってことだよ! 俺のせいで、あの子に怪我させちまったんだ」
思い出すまでもなく、時たま夢に見ることがある。
自分の運動能力の高さを過信して、彼女を村の外の洞窟へ連れ出した。ただ、彼女に、綺麗に輝く、辺り一面の光青石を見せてやりたくて。
なのに、得たものと言えば、一生消えることのない傷とトラウマ。そして、望みもしないガイア・リード。その代償として“エル=アマルナの君”に大火傷を負わせて。
「ガイア・リードは使わない。俺は、俺の手で強くなって、もう、二度とあんな過ちは繰り返さない」
言って、シェオルは固く手を握る。もう、自分のせいで人が傷つくのは、たくさんだ。
そんな彼の胸中を察してか、不意に、レットが、シェオルの手に自分の手を重ねた。
「俺達は、ちゃんと知ってる。運動能力のセーブの仕方をじっちゃんに習ってたことも、今は、必要以上にその力を使わないことも」
「レット…」
呼びかければ、力強く頷いてくれる友人。その言葉に、シェオルは、ようやく笑うことができた。
そんな二人の様子を見ていたザグだったが、彼としては、やはり、ガイア・リードが気になるらしい。
「お前の気持ちも、俺らは痛い程わかってるけどよ、いっそ、ガイア・リードを使いこなして、世界征服ぐらいしてやるって野望を抱いてみろよ? そのぐらいの力がありゃ“エル=アマルナの君”を助けるのも簡単なんじゃねェか?」
「世界征服…」
冗談めかして言ったザグの言葉に、シェオルは、不意に真剣な表情で悩み始める。
そのまま、しばらくの沈黙。
「シェ、シェオル?」
さすがに心配になったのか、レットが声をかけるが、一人の世界に入ってしまっている彼には届かない。
そのまま、レットとザグが見守る中、
「よしっ!」
唐突に叫んだかと思えば、立ち上がるシェオル。そして、幼なじみ二人に向き直る。
「そうだよな! 世界征服できるくらいの力があれば、あの子の顔も治してやれるかもしれねェし! けど、俺はじっちゃんみたいな剣士になって、世界征服する!!」
高らかに宣言し、シェオルは満足げな顔で、腰に差した剣を見る。祖父の力をも受け継いでいるようなその剣に、力をもらえそうな気がして。
そんな彼を、レット達が若干冷めた目で見つめていることに、気付かないまま。
「お~い、戻ってこい、シェオル」
「ほんと、バカ一直線だな。世界征服できる力と、傷を治す力ってのは別物だってのに」
「お前がバカ言って茶化すからだろ?」
完全に自分の世界に浸っているかわいそうな幼なじみを見ながら、レットとザグは半眼で呟く。もちろん、その声も、シェオルには届いていないのだが。
――そうだよ、助ける方法は絶対ある! それを探してやるんだ、あの子のために!
柄をしっかり握れば、わずかにカシャリと剣が鳴る。その感触に、なぜだか確かな手応えを感じていると、
「おい、何か聞こえないか?」
不意に、人差し指を口元に当てて、周囲をうかがうレット。それに呼応するように、シェオルとザグも、ふざけるのをやめる。
だが、その原因はすぐに知れることとなる。
「おい、あれ!」
高見台から身を乗り出すように村を見たザグが叫ぶ。わずかだが、村の入り口付近から黒い煙が上がっていた。とても、子供の火遊び、で、済まされる様子ではない。
「村に何かあったんだ! あの、黒いフードのやつ!」
「え、おい、シェオル!」
ザグと同じように村を見ていたシェオルだが、友人では気付けない姿を認め、はしごも使わず、一気に飛び降りる。
「ザグ、警鐘頼む!」
「待て、シェオル!」
走り出したシェオルを追いかけようとしたレットだが、彼の瞬発力には追いつけない。
「おい…」
ひとしきり警鐘を鳴らして、見えなくなった幼なじみの背を見つめるザグ。おそらく、みなまで口にしなくても、同じ自警団同士、考えていることは一緒だろう。
「あぁ。もし、シェオルの言っていたことが本当だとしたら…」
「ッ、行くぞ!!」
レットが断定する前に、ザグは慌てて走り出す。その姿を心配げに見つめながらも、レットもその後を追った。