「う~」
「いやぁ、悪いなぁ、女の子にこんなことさせて」
「そう思うんなら負けてよ」
恨めしそうに睨む姫に、俺はわざと明るく笑った。
今日は、アレウッドの街への買い物の日。
いつも通り、食べ物を買って、生活用品を買って、家に戻る。
ただし、今日は、昨日の約束通り、チェスに負けた姫が荷物持ちをすることになっていた。
俺なら、ああ言えば、きっと負けてくれる。そう思っていた様子の姫だったが、その考えは甘い。
俺は、勝負事には容赦をしないのだから。そう、仕込まれてきたのだから。
それにしても。
横目で、ちらりと姫を見やる。
俺達の一週間の生活は、同居を始めてからほとんど変わっていない。
まず、買い出しに出る日、それが、週に1回。
そして、俺が仕事に行くのも、週1回。
あとの五日は、家でいろんな遊びをして過ごしたり、一緒に料理をしたり、絵を描いたり、お互い、平凡な日々を過ごしている。
姫が、いつしか、違う意味で俺のことを気にしているのにも気付いていた。だが、詮索無用のルールがある以上、お互い、その一線は超えない。
俺は、食材をあれこれと見ているフリをして、そんなことを頭の隅で考える。それと、同時に思う。
そろそろ、潮時か。
彼女が、俺のことを知りたいと思った時点で、この生活は即終了。
それをわかっていて聞いてきたとしたら、その時は…。
「王子?」
聞かれ、すぐに笑って、何でもない、と答える。
知る必要の、ないこと。少なくとも、今の生活には。
「姫、今日はハンバーグにしようか? それとも、魚料理の方が良いかな?」
「う~ん、どっちも捨てがたい…」
「欲張りだなぁ、姫は。太るよ?」
「う、うっさい!」
他愛もない会話。そんな中で、きっと、姫は俺を探っているのだろう。わかる情報など、せいぜいしれているが。
だが、
「そういえば、王子って黒い服多いよね」
「何だよ、急に」
不意に姫がそんなことを言いだして、ドキリとした。思えば、服装に関して指摘されるのは、これが初めてかもしれない。
「そういう姫こそ、多いじゃないか、黒」
「まぁ、そうだけど…」
これもまた、初めての指摘。同時に、聞くなと暗に言ったつもりだが。
確かに、俺が黒い服を好むのは理由がある。だが、それは、俺の過去に関わることだから言えない。だって、お互いそうだろ? 知られたくないのは。
そう思ったが、言葉にできなかった。今は、してはいけない。
「どうかした?姫」
「うぅん、何でもないよ」
「最近、そればっかりだな」
苦笑してみせれば、姫も思わず苦笑した。
らしくない、ぎこちない笑い方。
「さぁ、買い物済ませて、早く家に帰ろう? お腹空いちゃった」
「ほんとに、姫は変わり身早いな」
さっさと話題転換をしてしまう姫に、俺は思わず笑ってしまう。それには、姫も安心したようだった。
いつもの生活。