落雷のせいか、雨が降りしきる。だが、まだ降り出したばかりだからか、足下はそんなに悪くない。
――確か、この辺りのはず。
直感だけを頼りに進んでいけば、少し開けた場所に出る。
「アシェア!」
「……」
追いかけてきたソフォスが声をかけるが、彼女は返事ができなかった。
そこには、確かに、落雷を受けたような跡がある。
だが、その中心には、一人の少年が倒れていた。一見すれば、普通の人間。ただ違うのは、彼が獣の耳と尻尾を持っている、ということだ。
「ソフォス様、彼は…」
「こいつは、獣人だ」
アシェアの言葉を待たず、ソフォスが言う。
だが、獣人と言えば、割れた海を隔てたアンフェールの住人。その彼が、どうしてここに?
そんなことを考えながら、自然と手は少年の方へ伸びる。
その時、
「アシェア!」
一歩早く反応したソフォスが、防御魔術を展開した刹那、ガキィ、と、高い音が響く。それが、目を覚ました少年が、自らの爪で攻撃してきたのだ、と気付いた時には、もう少年は距離をとっていた。
その彼は、自分の攻撃を受け止められ、臨戦態勢はとったまま、呆然としている。
「何だ? それは」
「今のは魔術です」
言って、今度は慎重に、少年に近づくアシェア。だが、彼が警戒心を解かないのを見てとると、立ち止まって説明を続けた。
「私はこの国の王女、アシェア。そして、こちらはソフォス様。信じがたいかもしれませんが、ここは、シエロです」
「シエロ…?」
聞き返してくる少年に、アシェアは簡単にシエロの説明をする。人間と、精霊の共存する、魔術が発達した国である、ということを。
それを、始めは黙って聞いていた少年だったが、段々と表情が変わっていく。それは、怒りにも似ていた。
「嘘だ…! だって、俺は…」
「アンフェールの獣人、だろ? だが、現実に起こったのさ。小規模だが、千年前と同じ、スフィモスがな」
「え…?!」
驚き、声を上げたのは二人同時だった。だが、そんな彼らを、表情の読み取れない猫顔で見やり、ソフォスは少年に向き直った。
「少年、名前は?」
「リゲル…」
「じゃあ、リゲル、最初に言っておくぞ。我は、千年の時を生きている。この国では、大賢者とされているんだ。嘘はない」
「……」
その言葉に、リゲルは押し黙ってしまう。
にわかには信じがたいが、少なくともここがアンフェールではないことは理解したらしい。
その上で、ゆっくりと言葉を選んだかのように、吐き出す。
「俺は、帰れないのか…?」
――え…?
独白のような呟きに、思わずアシェアは違和感を覚える。どこか安堵したような、表情が見えた気がしたが、それは…。
「ッ…!」
突如聞こえた巨大な咆哮に、驚いたのは三人同時。爆音が響き渡り、街の方を見やれば、そこには見たこともないような巨大な白い化け物がいた。
「あれは、アンフェールの…」
ソフォスが言い終わるよりも早く、リゲルが舌打ちし、森を飛び出していく。
「リゲルさん、一人じゃ危険です!」
「おい、アシェア!」