ハットゥシリの街。
到着してみれば、たかが市長と市民の内乱と侮っていたことが間違いだったと知る。エネアドほどではないが、ハットゥシリもなかなか大きな街だ。戦場は、各地へと飛び火していた。
「現状はどうなっていますか?」
市長側に参戦した王帝軍は、今の状況を事細かに聞き、作戦を立て始める。総指揮官は、王帝軍でも指折りの将軍だが、宮廷魔導士を束ねる立場にあるのはライトである。
おおよその展開を掴み、ライト達宮廷魔導士は、街の西側へと移動した。
「王帝軍だ!!」
国旗を掲げ、姿を見せただけで、それは市民へのプレッシャーになったらしい。だが、それはこちらには好都合。反乱を止めに来たのであって、戦争をしに来たわけではない。出来るなら、穏便に済ませたかった。
「各部、防御シールドを展開しながら、市民を拘束しろ! 出来るだけ傷つけるな」
矢面に立ち、それぞれの部隊を動かしていくライト。どうやら、この街でも、自分の名前は有名らしく、その姿だけで、怯む者もいるようだった。
このまま、無事に鎮圧できれば良い。そうすれば、また、笑って、楽しい日々を過ごせる。
そんなことを思っていると、
「ッ…!」
不意に、左腕に走った激痛に、ライトは思わず体勢を崩した。見れば、そこには、昨日、刻まれたルシファーを受け入れた痕。
『お前ももうすぐこちら側の人間だ』
なぜ、今になって、あの言葉を思い出す?
「ライト様!!」
唐突に叫んだ仲間の声に我に還ったライトは、反射的に振り返った。
刹那、
「ッ…!」
今度は、左腕ではない場所に、鮮明すぎるほどの激痛。弓矢に撃たれた、と、理解したのは、自分の体が傾いだ後だった。
「やったぞ、オリヴェ!」
そんな歓声が、遠くに聞こえる。
「ライト様!!」
自分を呼ぶ声も、どこか、遠い。そのくせ、あの悪魔の声だけは鮮明なのだ。それが、無性に腹立たしかった。
――リン、サイス…。
思わず、口にした名前。
大すきな青空を仰ぎながら、思わず一筋の涙が流れた。
「あぁ、これが、傲慢の悪魔の呪いなんだな」
独りごちた言葉が、果たして、形になったかどうか。
「まだ見ていたい、この青空を…」
その願いは、すっと伸ばされた手が地面に落ちるのと同時に、空へと消えていった。