ゆっくりと、目を開ける。
そんな感覚が自分でもわかるくらい、敏感に体が反応している。
精神だけの世界。
咄嗟に、そんな言葉が浮かんだ。
「まぁ、その辺の感覚はさすが、ってとこか」
唐突に聞こえた声に、ライトははっきりと覚醒した。自分に似た声に、思わず振り返る。
「お前、意外と“傲慢”持ってるんだな。そりゃ、宮廷魔導士様なんだから、当たり前か?」
飄々とした態度で言うその男は、見た目も声も自分そっくりだった。ただ、何もない真っ白な空間に、映える程の漆黒のオーラを纏ったそれは、双子の弟でも、ましてや自分の写し鏡でもない。
「傲慢の悪魔、ルシファー」
「ご明察。意外と冷静だな」
「まぁね」
言って、ライトはその発言を言霊に、魔術を発動する。だが、それはルシファーに届くことなく、霧散した。
「己の力も、過信しすぎるのは良くないぜ? こんなもので悪魔は払えない」
「やってみなきゃ、わかんねぇだろ!」
言うが早いか、すぐに構築される魔術。
「光よ、集え! アシェア!!」
今度は、明確な呪文でそれを解き放つ。何でもない言葉から魔術を発するよりは、効果は絶大、のはずだった。だが、それも、ルシファーには届かない。
「言っておくが、俺はお前でもある。お前の傲慢さから生まれたのさ」
「俺の…」
その言葉に、ライトは思わず口ごもる。自分自身、気付かないうちに芽生えていた感情を突き付けられて。
――いや、違うな。
胸中で独白し、思わず笑うライト。
知っていたんだ、そんな感情は。ただ、認めることは出来なかった。そうすることで、リンとの生活が終わるような気がして。
「それも、傲慢なのかもな」
今度は口に出してはっきりと言い、ライトは、真っ直ぐにルシファーを見据える。
「けど、そういう部分もひっくるめて、俺だ。だから、お前を否定はしない。けれど、ここからは出してもらうぞ。リンとサイスが待ってるからな」
きっぱりと言い切ってみせると、ルシファーは少し驚いたような表情を見せた後、肩をすくめてみせ、笑う。
「ほんと、筋金入りだな」
そう言った瞬間、真っ白だった世界が暗転していく。意外とあっさり引き下がったな、そう思うライトの胸中を知ってか知らずか、ルシファーは意味ありげな言葉を呟いた。
「良いぜ。お前も、いずれはこちら側の人間になる」
「え…?」
聞き返す間もなく、一気に世界は闇に落ち、ライトの声もその中へ消えていった。