「なぁ、星、見に行きたいと思わないか?」
「は・・・?」
唐突に言われた言葉に、思わず聞き返す。サッカーにしか興味がないと思ってた彼。そんなやつが、星なんて言葉を出してきたから、意外にも程がある。ましてや、遠足のプラネタリウムで爆睡してたような奴が。
しかも、天体観測に興味があるような相手に声をかけるのではなく、バレーボールの練習に明け暮れる私に向かって言ってきて。
「何で、私?」
「ルキだから聞いたんだよ」
「だから、興味もないのに?」
「だからこそ! それでも、感動するもんなんかなぁって」
どういう実験なんだ、と思わず言いたくなったけれど、まぁ、相手がシンなら、と、思っている自分もいて。
「じゃあ、行ってみる?」
「よしっ、決まりな! 今夜、部活後に決行だ!」
何気なく言った言葉に、シンはすっかり乗り気。どこまでマイペースなんだ、この男は。
けど、どうせ放課後の予定もなかった私は、二つ返事で頷いてしまった。
「あ~、さすがに、夜は冷えるな」
「当たり前でしょ? 夏って言ったって、高台は気温も下がるし」
夜練が長引いて、すっかり遅くなってしまった。横目に、近くの神社での夏祭りを楽しんできたらしい人達の姿を見ながら、私はシンの案内で、展望台に来ていた。
何で、私、ここにいるんだろう。しかも、シンと。
思わず自問してしまう。
「どうした?」
それが届いたかのように聞いてくるシンに、私は何でもないと首を振る。
同じクラスになって、一年半。話すことと言えば、お互い興味のあるスポーツの話。仲が良い方だとは思っていたけど、まさか、何のことはない話の流れで、天体観測にくることになるなんて。
「で、本当の理由は?」
「何が?」
「急に、星が見たい、なんて言い出した理由」
聞いてみれば、シンは驚いたような顔を見せる。けど、それはすぐに笑顔に変わった。
「ないよ。本当に思いつきだって」
「本当に?」
「そうだなぁ・・・」
問いつめれば、急に考え込み始めるシン。その口から出てきたのは、意外な言葉だった。
「いや、空一面の星を見ると、感動するって言うだろ? ほんとに泣けるかなぁ、って」
「何それ」
シンの言葉に、思わず笑ってしまいながら、私は、もう一度空を見上げた。空に輝く、満天の星。きっと、星座に詳しい人は、あれは蟹座、とか、夏の星座っぽいことを言うんだろうな。
そんなことを思っていると、
「シン?」
まっすぐこちらを見つめてくる視線に気付いて、思わず声をかける。けど、彼は何も言ってくれない。
「どうしたのよ、真面目な顔して」
「俺はいつでも真面目だよ」
言ってみれば、はぐらかされる。いつもの笑顔。
「意外とおもしろいし、また来ようぜ、天体観測。このまま、高校の間続けたら、すっげぇロマンチックじゃね?」
「うわ、シンの口から一番聞きたくない台詞だわ」
「ひっでぇな、それ」
言い合って、笑い合う私達。それが、当たり前の二人の関係だった。
「お母さん、あれなぁに?」
「あれは、琴座のベガね」
空を必死に指さして言う息子に、答える私。
あれから、すっかり星座に詳しくなって、ついには天文所に勤めるようになった私。あの頃からは、全然予想もしなかった、今という未来。
「お父さん、今どこにいるのかな?」
「さぁね。でも、きっと、見ててくれてるわ」
言いながら、息子を抱いて空を見上げる。
あれから、本当に高校を卒業するまで続けられた天体観測。始めは何気なく言っていたそれが、今は大きな意味を持った。
サッカー少年だった彼が、宇宙飛行士に。バレーボールに全てをかけていたような私が、天文所の職員に、なんて。
彼は、あの時、星空にこんな未来を描いていたんだろうか。
「ねぇ、お母さん!」
「はいはい」
父親譲りの熱心さで空を見上げる息子に、笑いかけて、私は、もう一度、彼がいる宇宙(そら)を見上げた。